こんにちは。弁護士の長谷川です。
 早いもので、もう6月ですね。今年も半分まで来たってことですか・・・。
 6月って、休日も少ないし、天気も何となくパッとしなくて、私は毎年息切れしてしまう時季なんです。
 なので、今月は少し余裕のあるペースで仕事をしようと思っているんですが・・・。(できるかなあ・・・。)
 自分のペースで仕事ができる?!ということで、今日は、いわゆる裁量労働制のお話しをしようと思います。

 さて、裁量労働制とは、すご~く大雑把に言ってしまうと、「専門的な仕事やってるんだから自分のペースで仕事するし、その結果、仕事時間が何時間であっても『●時間働いたと見なす!』ということにしてちょうだい」、という制度なわけです。(ホント、すっごく大雑把な言い方です。)

 これと年俸制を組み合わせれば、残業代の心配をせずにたくさん働いてもらえそうで、なんだか、会社にとってはとってもうれしい制度では?!っていう誤解が世間にはあるみたいで、最近、年俸制と共に、いろんな会社で導入が盛んみたいですね。

 裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があるんですが、紙面の都合上、今日は、専門業務型裁量労働制についてお話ししますね。

 まず、専門業務型裁量労働制って、どういうお仕事の人に適用できるのかって問題ですが、これは、労基法規則24条の2第1項で、19業務が具体的に指定されています。(デザイナーだったり、編集者だったり、あ、我々弁護士もそうですね。)

 で、裁量労働制の導入要件はいくつかあるんですが、そのうちの1つに「当該業務の性質上、業務遂行方法を大幅に当該業務従事者に委ねる必要がある為、当該業務の遂行手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示を行わないこと」というのがあります。要するに、仕事内容が専門的でその人に任せるしかないから、上司は、部下の仕事のやり方について、細々と口を挟まないでね、っていうことです。
 これ、本質的な部分ですね。(他にも、適用対象者を定めろとか、労働者の健康確保措置を定めろとか、色々要件はあるんですが、ここでは割愛します。)

 つまり、裁量労働制が導入されると、労働者は基本的に自分のペースで仕事ができるということになりますね♪

 また、使用者にとっても、裁量労働制の導入により、労働時間の管理/算定義務を免れるわけです。つまり、実労働時間をいちいち把握しなくても、●時間働いたと見なす!っていう超大雑把なことができるわけで、みなし時間が合理的に決定されている限り、たとえ、労働者の能率が悪くって、ダラダラと残業していても、会社は、みなし時間以上の賃金支払い義務が発生しないわけです。うれしいですよね♪

 ただ、いいところばっかりじゃありません。
 例えば、深夜労働や休日労働分の割増分は払わなきゃいけません。つまり、深夜労働時間については、使用者は実労働時間を把握して、その時間×25%以上の割増分を払わないとならないわけです。
 休日出勤についても同様です。休日出勤日を把握し、35%以上の割増分を払わなければなりません。(この場合、労働時間についてはみなしてしまえば良いので、実労働時間まで把握する必要はありませんが。)

 またそもそもの「みなし時間 ●時間」についても、実際の業務状態に照らして合理的に定められていなければなりません。みなし時間が、余りに現実の勤務時間とかけ離れていると、例えば裁判所で争われた場合、みなし時間の定めが「無効」とされてしまいかねません。
 つまり、実際の労働時間にかけ離れたみなし時間を定めて、実際にはみなし時間を遙かに超えて労働させておきながら、結局はみなし時間分の賃金しか支払わないということになると、裁判所がみなし時間の定めを無効として、実労働時間を前提とした賃金を支払えということになりかねないわけです。
 これって、使用者側にとっては、突然に多額の賃金支払い義務が生じるということですから、結構ダメージが大きいですよね。(貯まってますから、超多額ですよ~。)
 その意味で、みなし時間の定めを、安易に所定労働時間としてしまうことは要注意なんです。

 また、出退勤時間や遅刻・早退、欠勤の取り扱いにも注意がいるんです。
 例えばこんな感じ・・・。

質問1: 3時間働こうが11時間働こうが、みなし時間働いたと見なされるってことは、出退勤は自由ってこと?(→こうだったら、労働者にとってはサイコー!なわけですが・・・。)

回答: ×。違います。裁量労働制は、単に、使用者の労働時間管理/算定義務を免除しただけの制度です。なので、いわゆるフレックスタイム制のフレキシブルタイムみたいに、出退勤が自由になるわけじゃないんです。だから、始業・終業時間はちゃんとあるし、所定労働時間もあります。(所定労働時間働いたと「みなす」わけですけど。)

質問2: じゃあ、始業・終業時間があるってことは、裁量労働制を適用されている人が遅刻したら、遅刻した時間分の賃金はカットできるの?(→使用者は当然、こう思いますよね。)

回答: ×。できません。遅刻したこと自体は、何度も繰り返されれば、懲戒処分ものですが(多くの場合、就業規則では、遅刻・早退を繰り返すことは懲戒事由になってますよね)、遅刻しても、現実に裁量労働に従事しているわけですから、みなし時間は労働したとみなされ、遅刻分の賃金カットはできないということになります。

質問3: じゃあ、無断欠勤した場合も、欠勤した日数分の賃金カットはできないんでしょうか?(→使用者にとっては、冗談じゃないぞ-!って感じですよね。)

回答: △。日給/月給の場合、できます。何度もしつこいんですが、裁量労働制というのは、あくまでも、裁量労働に従事した場合の時間管理/算定義務を免除した制度なんです。従って、自由に欠勤できることを予定した制度でもなければ、欠勤=裁量労働に従事しない、ということを前提とする制度でもありません。
 裁量労働に従事しないんだから、みなし規定の適用の余地もありません。ですから、賃金をカットすることは可能です。 No work, No payというわけです。
 ただし、完全月給制だと、賃金カットはできません。

 結局のところ、裁量労働制って、単純に「残業させ放題~」っていうことにもならないし、「出退勤自由/気ままにお仕事~」って訳にもいかないんですよね。(当たり前か。)
でも、使い方次第で、使用者は人件費を合理的に使えるし、労働者も自分の専門性を発揮しやすくなるわけで・・・。 
 労使共々、誤解のないように、うま~く使いこなせるといいですよね。

 ・・・私は何とか息切れせずに6月を乗り切れるといいんですが・・・。
 できるかなあ。。。

弁護士 長谷川桃