第1 保護対象となる労働者

1.労働者の意義

 まず、様々な法令による保護を受けるためには、使用者と労働契約を結ぶ労働者にあたらなければなりません。いかなる者を「労働者」というかは、労働基準法9条に定義されていますが、この文言だけからははっきりしないので、判例による解釈で決められているのが実情です。すなわち、「労働者」とは、労務供給者と受領者間の指揮命令関係の有無を中心に、報酬の労務対償性等諸般の事情を考慮して判断するとされています。わかりやすく言うと、使用者から指揮命令を受け、自分が働いた分の対価として報酬をもらっているような関係があればよいのです。ですから、民法上の雇用契約に限らず、委任ないし請負契約等であっても、こういった関係にある者は「労働者」にあたるわけです。

2.労働者概念の相対性

 使用者や労働者というのは、上述した定義からもわかるように、あくまで相対的な概念であり、一人の人物がある場面では使用者であっても、別の場面では労働者ということが生じえます。

 すなわち、ある課長が係長に対して時間外労働を命ずる場面では「使用者」ですが、部長から指揮命令を受ける場面では「労働者」ということになるのです。

 このように、その人物が管理職という地位にあるから、それだけで、使用者にあたり、労働者としての保護を受けられないわけではないことには注意が必要です。

 ただ、労働基準法上の「監督若しくは管理の地位にある者」(同法41条2号)にあたる人物は、時間外労働(すなわち深夜業は除く)・休憩・休日に関する保護規定についてだけは常に適用対象から外されます(同条柱書)。

3.各種労働者保護法令の適用

 上述したような「労働者」に該当すれば、労働基準法のみならず、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法(労災保険法)等による保護の対象となります。

第2 労働基準法の適用範囲

1.適用事業

 労働基準法は、適用事業を列挙する方式を改め、原則として一人でも労働者を使用する全事業に適用する包括適用方式を採用しました。

 そして、注意すべきことは、「事業又事務所」(9条)を単位として適用されるのであって、企業全体が単位となるのではないことです。「事業」は場所的概念なので、同一企業内に複数の事業所がある場合、その事業所の場所が違えば労働基準法は、それぞれ別個のものと扱って各々に法を適用していくわけです。

 もっとも、同一の場所にあっても、著しく労働の態様を異にする独立した事業については、例外的に別個の存在として扱います。企業内の診療所や食堂などがそれにあたります。

2.属地主義

 事業が日本国内で営まれる限り、事業主が日本人であるか外国人であるかを問わず、労働基準法は適用されます。他方、事業が日本国外で営まれれば、事業主が日本人でも同法の適用はありません。

 このような法制を属地主義と呼びます。

3.適用除外

 船員、家事使用人、同居の親族のみを使用する事業については、労働基準法の適用対象としない旨定められています(労働基準法116条)。

 一般職国家公務員についても、国の直営事業職員(旧4現業)を除いて、労働基準法は適用されず、一般職地方公務員については、賃金や労働時間等適用されない規定があります(国家公務員法1条以下、地方公務員法24条等)。なお、特別職国家公務員や特別職地方公務員については、原則として労働基準法が適用されます(国家公務員法2条5項、地方公務員法4条2項)。

 ちなみに、労働組合法に関しては、旧4現業(郵便、林野、印刷、造幣)を除く一般職国家公務員・地方公務員について、国家公務員法・地方公務員法が適用されるため、全面的に適用除外されています。また、特定独立行政法人・地方公営企業職員には、それぞれ「特定独立行政法人等の労働関係に関する法律」、「地方公営企業等の労働関係に関する法律」に定めがない事項についてのみ、労働組合法が適用されます(特定独立行政法人労働法3条、地方公営企業労働法4条)。