1.増えている自社製品購入呼びかけ
世界経済を襲った不況で、職員に自社製品購入を呼びかける動きがいくつかの会社で出てきました。
例えば、トヨタ自動車では、部長以上の管理職が参加する「部長会」で、自社の新車購入の呼びかけが始まったそうです。
また、パナソニックでは、管理職を対象に10万円以上の家電などの自社製品購入を呼びかけているとか。
トヨタもパナソニックも、さすがに一般の職員を対象にそこまでやるのは抵抗があったのか、呼びかけの対象はとりあえずは管理職クラスのようです。
もっとも、富士通は、社長自らがメールで国内グループ会社の職員約10万人を対象に自社製品の購入を呼びかけています。こちらは、管理職クラスに限定されておりません。
2.給与の現物支給と見られないように!
会社の呼びかけに応じて自社製品を購入するか否かが、その職員の自由意思に委ねられているのであれば、法律的には全く問題ありません。
但し、事実上強制するような態様で自社製品の購入を促すと、実質的には「給与の現物支給」と解釈されるおよれがあります。
なぜならば、自社製品の購入を強制するということは、職員から見れば、給与の一部を現物(自社製品)で支給されているのと同じだからです。
労働基準法は、賃金は全額通貨で支払うように定め、現物支給を原則として禁止しています。
例外的に許されるのは、労働組合が給与の一部を現物支給とすることに同意し、会社と労働組合との間で労働協約が成立した場合です。
したがって、自社製品の購入を強制しているのではないか、と疑われるような態様で呼びかけることがないように注意する必要があります。
3.強制力を排除した運用を!
トヨタやパナソニックは、一般職員を対象に呼びかけることに抵抗があったのか、管理職クラスに限定している様子ですが、実は強制的色彩を排除するのであれば、本当は、広く一般職員を含めた方が無難です。
富士通のように、国内のグループ会社10万人が対象となると、実際に職員が購入したのかどうか管理するのは困難です。まさか、職員全員に購入したことを証明する領収書の提出を求めるわけにもいきません。
しかし、管理職クラスだと、管理職という立場上、会社が困っているときこそ愛社精神を示すべきではないか、管理職クラスなのに会社が困っているときに貢献しないと、今後の人事査定で不利になるのではないか、と考えてしまうことから事実上強制しているかのような空気を帯びてしまいます。
また、管理職への呼びかけは、どうしても密室化しやすい傾向にもあります。
したがって、強制する意図が会社になかったとしても、強制されていると感じる管理職クラスの人もいると思われますので、紛争のきっかけになりやすいのではないか、と思います。
むしろ、やるなら富士通のように、のびのびとオープンにやった方がいいと思います。本当に任意であるならば、呼びかけ対象は多い方が母数が増えますので、確率論から言えば、自社製品の販売数も増えると思います。
4.職員のインセンティブ、モラールにも配慮を!
以上は法律論でしたが、経営者としては、職員のインセンティブやモラール(士気)にも配慮をしてほしいと思います。
不況の時だからこそ、職員のインセンティブ、モラールを高める施策が求められます。
また、不況の時は、職員だって切り詰めた生活をしており、決して楽ではないはずです。
それなのに、会社が自社製品の購入を事実上強要するような行動をとると、当然職員としては、「やってらんねえ!」となり、インセンティブやモラールが著しく低下するおそれがあります。
筋を通して、お願いベースで職員に頭を下げましょう。