1.執行役員って何者?
最近、名刺交換をすると、「執行役員」という肩書きの名刺を見かけることが多くなったと思いませんか?
実は執行役員という制度は、法律上の制度ではなく、アメリカの経営手法を事実上、導入したものです。日本でも、委員会等設置会社に「執行役」というのがありますが、これとは違います。
でも、発想は似ています。
なぜならば、経営部門を意思決定・監督機関と業務執行機関に明確に分けて、意思決定・監督機能を強化することを目的としているからです。
しかし、執行役を導入するには、委員会等設置会社にする必要があり、また、法律上の制度であるため、様々な制約もあり、フレキシブルに活用できないという事情があります。それに比べると、「執行役員制度」は、我が国の会社法が制度化した正規なものではないため、ある意味、会社の実情に応じてフレキシブルな制度設計が可能となり、こちらのほうが却って流行してしまったように思います。
日本の典型的な経営部門の機関設計は、取締役会を設けてその中から代表取締役を選任し、代表取締役が日々の経営の業務執行を遂行するというものです。この仕組は、意思決定・監督機能は取締役会が、業務執行は代表取締役が行うことを想定しているのですが、ご承知のとおり、取締役の中で最も力のある人が代表取締役に選任されるのが通常ですから、代表取締役の業務執行を取締役会が監督・コントロールすることは事実上困難です。
そこで、執行役員制度は、取締役会には意思決定と監督に専念してもらい、執行役員には業務執行を担当させて、意思決定・監督機能と執行機能を明確に分離することを狙ったわけです。
2.取締役と執行役員とでは、どちらが偉いの?
執行役員という今風の名称が何となく格好よく聞こえ、執行役員の方が偉いような響きがありますが、制度的には、取締役会の方が上です。なぜならば、取締役会は、経営の重要事項について意思決定するとともに、執行役員の仕事を”監督”する地位にあるからです。監督される方が監督する立場よりも上ということはありませんよね。それでは監督できませんから。
ところが、格好よく聞こえてしまうのには、それなりの理由があります。
アメリカで、俗に言う”CEO”(最高経営責任者)というのは、執行機関のトップを指します。制度的な地位の上下はともかく、事実上の権力は、この執行機関のトップに集まる傾向があります。分かりやすい例で言えば、国会と内閣総理大臣の関係に似ています。ご存じの通り、国会が国政の意思決定機関です。そして、国会が決めたことを”執行”するのが内閣で、これを行政というわけです。その行政のトップが内閣総理大臣です。ですから、制度的には、国会が内閣総理大臣を初めとする閣僚を監督する立場にあるので、国会の方が上なはずですが、国会義員よりも内閣総理大臣のほうが格好いいと思いませんか。
CEOは内閣総理大臣で、執行役員はその他の閣僚のようなものです。
でも、本当の格好よさの理由は、単に”アメリカ的だから”というレベルの話であるのかもしれません。
3.日本の執行役員制度
日本の執行役員制度は、本家のアメリカとは状況が違って、その活用方法は様々です。
アメリカと同じような位置づけで執行役員制度を導入している会社もあれば、取締役の降格人事として活用している会社も少なくありません。
降格人事としての執行役員というのは、肥大化した取締役会のメンバーを削減するために、取締役から執行役員に地位を下げられてしまった人たちです。言い換えれば、取締役のリストラです。リストラといっても、会社から追い出されるわけではなく、執行役員という立場で会社に残れるわけですから、会社をクビになってしまう従業員のリストラよりは、ずいぶんましです。
取締役という高いレベルから眺めれば、降格人事と位置づけることができますが、下から、すなわち従業員から見れば、執行役員になれることは出世です。
そこで、取締役にはなれないが、執行役員までは出世させてあげれば、従業員のインセンティブが高まるという理由で導入している企業もあります。
したがって、名刺を見て格好よさそうにみえるのですが、実際のところは、その会社によってまちまちで、いちがいには言えないというのが日本の執行役員制度の現状です。私が、このテーマを人事・労務のテーマの一環として位置づけているのも、そのような文脈でご理解ください。