従業員が退職後に同業他社に転職するなどして競業行為をしている場合、この競業行為を差し止めることができるのでしょうか。差止請求は、被請求者に対する制約が大きいため、基本的には法律等による明確な規定がないと認められません。

 従業員の競業避止義務違反が問題になった裁判例の中でも、差止請求が認められている不正競争防止法や著作権法に基づいて、競業行為の差止めを請求している事案が多く見られます。もちろん、就業規則等で競業禁止条項を設けることによって、その競業禁止条項に基づいて従業員の競業行為の差止めを請求することも可能です。

 ただし、競業禁止条項は、禁止の範囲を明確にし、禁止することによる代替措置(退職金を通常より多く支払う等)を設ける必要があります。そうしなければ、せっかく設けた競業禁止条項が裁判所で無効と判断され、いざというときに使い物にならない条項になってしまいます。

 競業禁止条項に基づいて従業員の競業行為の差止めを認めた裁判例では、競業禁止期間が退職後2年間、禁止する競業行為が会社の業務分野の営業、勧誘活動と条項に規定されている事案で、競業禁止条項を有効とし、請求会社に従業員の退職後2年間、競合会社で請求会社の業務分野の営業、勧誘活動を行うことについて、従業員に対して禁止を求めることができると判断したものがあります(東京地裁平成18年5月24日決定)。

 この裁判例からも分かる通り、差止請求は、明確に禁止条項を規定し、禁止の範囲も限定的にしなければ認められませんので、競業禁止条項を規定する際には、その条項が無効にならないようしっかりと考える必要があります。

弁護士 竹若暢彦