韓国の大型旅客船「セウォル号」が沈没し、本邦でも大きな話題となっています。
この事件、見込まれる犠牲者の数の多さももちろんながら、船長以下の船員がみな我先に艦船を見捨てて逃げてしまったのではないかと言われており、船長らが逮捕されるという事態にまで発展してしまっています。
我が国で、もし同じような事故が発生し、その船長が真っ先に船を捨てて逃げてしまい、乗客乗員に死傷者が出たという事件があったとしたら、どういう刑事責任が生じ得るのでしょうか。
艦船の航行の安全と乗員の義務等を定めた法律として、日本にも「船員法」という法律があります。
船員法は、12条で、船長に対し、「自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽くさなければならない」と規定し、船長がこれに反した行動をとった場合には5年以下の懲役刑を科すとしています(123条)。
船長以外の船員(船員法上は「海員」という呼称を用いています)についても、難破時に船長以下の上長の指示に従わなかった場合に1年以下の懲役刑を科す旨の規定があります(128条2号)。
また、船長については、故なく自己の船舶を遺棄したときには、2年以下の懲役刑が予定されています(125条2号)。
朴大統領が、セウォル号の船長の行動について、「殺人にも等しい」といった趣旨の発言をしたと報じられていますが、船長としての乗客等救護義務を一切果たさずに離船したとしても、わが国の法律に基づけば殺人罪に問うことができないことは言うまでもありません。離船行為をもって業務上過失致死罪に問い得る可能性は残りますが、船長としての人命救護義務違反罪(船員法123条)とで観念的競合の関係にたつのではないかと考えられます(実行行為が完全に重なり合うとまでは言えない場合もあるとは思います。なお、両罪とも長期懲役5年が予定されている犯罪であることは同じです)。
結局、船長が負うべき罪責は、人命救護義務違反罪と船舶遺棄罪の併合罪で、長期7年6月の懲役刑ということになるでしょうか。
ちなみに、航空機の機長にも、上述の船長と同じ人命等救護義務が課せられており(航空法75条)、これに違反した場合の罰則も5年以下の懲役と(同152条)、船員法と同じような規定が置かれています。
他方、機長以外の乗組員については、海員に対する責任と類似する規定が存在しません。
さらに、鉄道の運転士等については、これら機長・船長のような責任を個別法によって規定しているものは見当たりません。
鉄道については、鉄道事業者に安全管理体制を構築させることによって、運行の安全を図るという考え方が採られているようです。