こんにちは。弁護士の岡本珠亀子と申します。 さて、本日は、身近な事件のひとつといえる痴漢事件についてお話しします。

男性の中には、「満員電車で痴漢に間違われないよう、なるべく手を上に挙げている」という防御策をとっている方もいるほど、痴漢というのは誰が犯人か特定するのが難しいものです。したがって、痴漢冤罪という話はよく聞きます。

弁護人として、捕まってしまった方(被疑者)と接見する場合、とくに「本当にこの人が犯人なんだろうか」ということは慎重に見ます。  以前、痴漢事件で逮捕された被疑者に接見した際、初め、「私はやってません。」とはっきり言われたことがあります。私は「冤罪?」と思いました。弁護人としては、当然、「それじゃあ逮捕されたときどういう状況だったのか。」ということを、事実関係を細かく聞きながら探って行きます。  事実関係を確認していく中で、いくつか、疑問に思う点もありました。しかし、だからといって、「あなたがやったんでしょう!」と責めることはできません。弁護人としては、被疑者が「やっていません。」と言うなら、それを信じて、疑問点を解消しながら、どうやったら無罪に持ち込めるか、身柄解放させるか、ということを検討していかなければならないのです。

私とその方は、よく話し合いました。また私は、身柄解放に向けて検察官にも働きかけたり、身元引受人になってくれそうな人と話合いを重ねました。 そんな中、被疑者が、「実は痴漢をしました。」と言い出したのです。どうして急にこのように変わったのかときくと、弁護人が話をじっくりきいてくれたり、検察官などに働きかけてくれたりしているのを知って、自分が嘘を言っているのが申し訳なくなったと言うのです。
そこからは、その被疑者も真実を包み隠さず話してくれました。そしてしばらくして身柄解放されたのです。

弁護人としては、被疑者が「やっていない」と言うなら、「取り調べの際も、やっていないことを『やった』とは言ってはいけない。」ということを何度も念押しします。上記の例でも同じように言い、結果的には、痴漢をしていたのですが、弁護人としては、依頼者の言うことを信じてあげることが大切だと認識させられた事件でした。ただ、最初から自白していれば、もっと早期に解放されていたかもしれないのに、というジレンマもあった事件でした。