今回は、私が担当したストーカー事件を紹介します。

 公訴事実は、ストーカー規制法違反ではなく建造物侵入ですが、ストーカー目的の建造物侵入なので、その実質はストーカーの事件です。
 しかも、被告人には、同一女性に対するストーカー目的の建造物侵入で前科があり、執行猶予中の犯行でした。

 建造物侵入自体は微罪ですが、本件の実態がストーカー行為であることや、執行猶予中の犯行であり、しかも同一女性に対するストーカー行為の再犯であることから、執行猶予付の判決を受けることは絶望視されました。
 そして、もし本件に対して実刑判決がくだされれば、前刑の執行猶予も取り消されることになって被告人は相当長期服役しなければならなくなることが想定されました。

 ところが、本件では特殊な事情があったんです。それは、被告人が少年時代から統合失調症(旧・精神分裂症)に罹患していたことです。

 そこで、被告人のために再度の執行猶予を得させるためには、責任能力を争うより方法がないと考えた私は、いわゆるinsanity defense (責任無能力を理由とする無罪主張)を行う方針を立てました。

 裁判所は、弁護人による精神鑑定の請求を採用し、精神鑑定が開始されました。
 鑑定医による鑑定作業は約6ヶ月という長期に及びましたが、幸いにして、鑑定医から提出された鑑定報告書には、「犯行当時、被告人の是非弁別能力が著しく減退していたことが認められる」と述べてあり、これは実質的に鑑定医が被告人の心神耗弱状態を認める内容だったんです。

 その結果、心神喪失状態までは認められなかったので無罪判決は絶望視されましたが、相当程度の減刑を見込むことが出来ました。

 もっとも、上記のとおり、ストーカーによる再犯であり執行猶予中の犯行という本件の特殊性から、この鑑定報告書の内容だけで再度の執行猶予付判決を得ることができるかどうか一抹の不安もありました。

 そこで、被告人の両親が海外在住だったことに目をつけ、父親を情状証人として尋問し、判決予定日の翌日の渡航チケットを購入して被告人を速やかに日本から出国させる旨確約させたんです。これにより、被告人がストーカー行為の再犯に及ぶ可能性が著しく低くなったことを立証できました。

 その結果、被告人には、懲役1年・執行猶予4年の判決が下され、ストーカー事案であるにもかかわらず、再度の執行猶予を勝ち取ることができたんです。
 当初は執行猶予なんて絶望的でしたが、弁護人の姿勢としては、最後まで諦めないで訴訟方針を工夫することの重要性を痛感した事件でした。

 めでたし、めでたし…。