万引きは、当然、犯罪であり、刑法第235条の窃盗罪にあたります。犯行態様が極めて悪質とまではいかないこと、被害額が比較的低いケースが多いので、初犯で起訴まで至るケースは少ないものの、万引きを繰り返す場合も散見され、、何度も刑務所に収容される事案もあります。
通常、貧しさから万引きを繰り返してしまうケースが多いのですが、問題となるのは、裕福でありながら、万引きを繰り返す被疑者がいることです。
お金に困っていないにも関わらず、万引きを繰り返す被疑者については、果たして、刑事責任を問うことで解決するべきかどうか、慎重にならないといけません。
私は、万引きを繰り返して、このままだと起訴される可能性が極めて高い被疑者の弁護人になったことがありました。万引きで逮捕されたのが5度目で、被疑者の両親から依頼された案件でした。 まず、被疑者から事情を聞こうと考えたのですが、両親曰く、精神科に長く通院、入院を繰り返しており、現在は、自分の部屋に閉じこもっており、部屋から出てこないとのことでした。実際、被疑者の自宅に行きましたが、被疑者が部屋から出てくることはありませんでした。 次に、被疑者の両親から話を聞いたのですが、被疑者は、大変裕福な家庭で育っており、犯行当時も両親と同居しており、お金に困っている状況がありませんでした。
担当検事は、起訴する予定だったようですが、私は、被疑者に必要なのは、刑事処分ではなく、専門家による治療ではないかと考えました。
そこで、被疑者を長年、治療してきた主治医に詳しく話を聞きました。すると、被疑者が万引きを繰り返すのは、病気が原因であるという専門的な話を聞くことができました。具体的には、脳の中にある、衝動を抑えるという機能が働かず、興味があるものをすぐに持ち帰りたいという衝動を抑えられないとのことでした。
実際、被疑者が万引きした物は、大量のクリスマスツリーに飾る小さなサンタクロースの人形で、食べ物や日用品ではありませんでした。
結局、担当検事に事情を伝えて、直接、主治医から話を聞いてもらい、被疑者は、不起訴処分となりました。被疑者は、その日に主治医のいる病院に入院しました。
このケースのように、被疑者に必要なのは、刑事処分ではなく、病気の治療であるというケースがあり、弁護人としては、決して、見落としてはなりません。
万引きに限らす、被疑者が犯罪を繰り返さないために、何が本当に必要なのかを刑事弁護人は、常に考えて、弁護活動を行うべきです。
弁護士 楠見真理子