先日、女性に自殺を教唆した罪で、慶応大学の男子学生が逮捕された、というニュースをテレビで観ました。
その女性は実際に飛び降り自殺をして亡くなられたそうです。

いや~、非常にビックリしました。

何がビックリかと言うと、まずひとつは、自殺関与罪の罪に問われるような事件が起こったことです。
もうひとつは、女性に自殺を勧めた際に、その男子大学生が吐いた暴言のひどさです。

自殺関与罪には、次の3つの犯罪類型があります。

① 自殺教唆罪
② 自殺幇助罪
③ 同意(嘱託)殺人罪

①の自殺教唆罪は、自殺する意思がない人に、自殺を唆して自殺の意思を生じさせ、実際に自殺させてしまう、という犯罪です。

②の自殺幇助罪は、既に自殺する意思を有している他人の自殺行為を援助する、という犯罪です。

③の同意殺人罪は、他人の嘱託、つまり、他人に頼まれて、その人を殺害してしまう、という犯罪です。

①と②の共通点は、犯人が他人の自殺に関与する点です。

本来の刑法理論から言えば、自殺は犯罪ではないのだから、これを教唆・幇助という形で自殺に関与しても犯罪にならないはずです。
しかし、犯罪ではないとは言え、人が死ぬわけですから、これに関与するのはよろしくない、ということで、刑法は、これを犯罪としました。
でも、あくまでも自殺への関与であって、殺人ではないわけですから、殺人罪よりも刑はずっと軽くなっています。

これに対して、同意殺人は、他人の同意があるとは言え、殺人です。

でも、その実質は、自殺への関与と言えます。
なぜなら、死にたいと思っている人に頼まれて殺害するわけですから、その実質は自殺の幇助とも言えるからです。
したがって、性質上、刑法はこれを自殺関与罪の一類型として扱い、自殺教唆や自殺幇助と同じ条文の中に規定を置いています。

今回、その男子大学生が逮捕されたのは、自殺関与罪のうちの”自殺教唆”の容疑でした。
これは非常に珍しいことです。なぜなら、3つの自殺関与罪の中で、実現するのが最も困難なのが自殺教唆だからです。

自殺幇助と同意殺人は、ある意味、実現可能です。というのは、この2つは、既に死のうと決意している他人がいるからです。死にたい人の思いを遂げさせるための、関与の仕方の相違にすぎません。

しかし、自殺教唆を実現するのは容易ではありません。
死にたいと思っていない人をその気にさせるわけですから。自殺を唆したからといって、思い通りにその人が自殺してくれるわけではありません。
ということで、過去に自殺教唆罪が適用されたことはほとんどないと言ってよいくらい、珍しい犯罪なんです。

となると、被害者を”その気にさせる”ためには、それなりの言動がなければ不可能ということになります。

では、その男子大学生は、被害女性を自殺させるために何を言ったのか?
これがけっこう凄いんですよ。
報道によれば、

「生きている価値なんてないじゃん。死ねよ。飛び降りれば簡単に死ねるじゃん」というメールを被害女性に送ったとか…。 そのメールを読んだ女性は、「どうしてそんなひどいことが言えるの」と返信して、その後本当に飛び降り自殺してしまったんです!

いやいや、思ったとおりすごい。普通に巷であるような男女間トラブルや別れ話の類では、そう簡単に人は自殺なんかしません。
自殺させるには、それなりの言動がなければだめなんですよ。
この男子大学生が残酷なのは、死に方まで助言している点です。
リストカットなんかされても、自殺未遂で終わる可能性が十分あります。
飛び降り自殺であれば、ほぼ確実に死ねるでしょうね。失敗しない自殺を唆しているんです。

どんなトラブルがこの男女間であったのか、ボクは知りませんが、悲しくなる事件です。
その後、本当に検事は自殺教唆の罪で起訴したのか、それとも釈放したのかは知りません。
亡くなられた被害女性の冥福をお祈りします。