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さて、新年早々、川崎市で、被疑者が検察庁から逃げ出すという事件が起きました。警官が約4000人、捜索に駆り出されたそうで、結構大きな騒ぎになっていたようです。
結局、被疑者は数日で逮捕されたということですが、この件、当該被疑者については逃走罪が成立しない見通しであることが話題となっています。
逃走罪(刑法97条)は、「裁判の執行により」拘禁されている最中に逃走することを要件としています。この件、被疑者は、逮捕はされていたがいまだ勾留が決まっていない段階で逃げ出したとのことですが、この段階で被疑者が地検にいたという状況は、裁判の執行による拘禁状態に当らないだろうということです。裁判例や通説は、勾留が決まれば裁判の執行による拘禁としていますが、単に逮捕されただけではそれに当たらないと解しているようです。(なお、刑法98条の加重逃走罪については「勾引状の執行を受けた者」も対象としており、裁判例上、逮捕された者はこれに準じるとされています。仮にこの件が、被疑者が地検の部屋の扉を壊して逃走していたようなケースであれば、この罪に問われたのでしょう。)
この件の被疑者は、逃走それ自体を理由に罪に問われることはないでしょう。しかし、逃げたという事実は、そもそもの被疑事実を今後裁く上での情状にはなります。公判となれば、検察の求刑は重めとなることが予想されます。
この件、うろ覚えですが、警察はもともとの被疑事実についての逮捕状を再度請求し、それをもって被疑者を逮捕したと報道されていたと記憶しています。
上記のとおり、この件においては、逃走自体は罪とならないと考えられるため、被疑者を見つけても逃げたことを理由には身柄拘束ができません。もともとの被疑事実についての最初の逮捕状は、執行時点で効力を失うため、それをもっての身柄拘束も出来ません。そのため、再度逮捕状を取り付ける必要があったのでしょう。(余談ですが、逮捕状を再度請求する場合には、刑事訴訟法199条3項及び同規則142条1項8号により裁判所に一度逮捕状が請求、発付されている旨を伝えなければなりません。この件においては、そのようなやり取りもあったのでしょうか。)
最後に、この件が、被疑者と弁護人の接見中に発生したらしいということは気にかかります。弁護士としては、被疑者との面談くらいは、手間なく気兼ねなく行ないたいものです。しかし、この件が妙な前例扱いをされて、やれ逃走防止だなんだと監視が高められることで、接見の手続き、環境が息苦しいものとならなければいいのですが。