第2 改正要綱案について
1 要綱第四(強姦の罪等の非親告罪化)
(1) 概要
被害者の告訴がなくても起訴できるようになりました。非親告罪化の趣旨は、告訴をするかしないか、あるいは一旦なした告訴を維持し続けるかどうかということについて思い悩むといった被害者の負担を軽減するという点にあります。
非親告罪化に関する時的範囲については、上記趣旨に鑑みると、改正法施行前の行為についても非親告罪として取り扱われることになります。もっとも、改正法施行前に、すでに「法律上告訴がされることがなくなっているもの」については、被疑者の地位の安定性、被害者の意思の尊重という観点から、非親告罪として取り扱われることになります。
裏を返すと、改正法施行後に告訴を取り下げてもらったとしても起訴される可能性があるので、性犯罪の被疑者を弁護する我々としては弁護過誤にならないように十分に留意しなければなりません。
「法律上告訴がされることがなくなっているもの」とは、具体的には、以下の3つが挙げられます。
すなわち、一つ目として、すべての告訴権者の告訴が取り消されて更に告訴をすることができないような場合、二つ目として、被害者本人が死亡し、かつ、生前に告訴をしない意思を明示していたため、刑事訴訟法第231条2項に規定する親族がいるものの、同行ただし書の規定により告訴をすることができない場合、三つ目として、刑法第229条ただし書きの場合、すなわち、わいせつまたは結婚目的の略取・誘拐の罪で、被害者が犯人と婚姻した場合においては、婚姻の無効または取消しの裁判が確定した日から6か月が経過したときは告訴の効力がないとされているところ、改正法施行の時点でその期間を経過しているときなどです。
(2) 意見
ア 遡及適用について
告訴が処罰条件であるところ、訴状条件については憲法39条の適用はないが、その精神を尊重して、被告人の不利益を避けるべきであるから、遡及をさせるべきではない(宮田委員)。
イ 非親告罪の弊害について
非親告罪以降は、告訴を取り消すという選択肢が性犯罪の被害者の方からなくなる。性犯罪被害者に対する新たな二次被害が惹起されることのないよう、弁護士あるいは専門家によるサポートがこれまで以上に重要になってくる(武内幹事)。
また、司法過程の中での被害者支援、司法過程に参加できるようになるための精神的社会的な被害者支援をより強化することが必須であり、それを保障する政策、対応が必要である(宮田委員)。
2 要綱第五(集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪の廃止)
刑法第178条の2(集団強姦等)及び第181条第3項(強制わいせつ等致死傷)が削除されました。
3 要綱第六(強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪の改正)
(強制わいせつ等致死傷)
第181条 第一七六条、第一七八条第一項若しくは第一七九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 第一七八条、第一七八条第二項若しくは第一七九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。