2 取調べの録音・録画制度

(1)取調べの録音・録画義務

ア 条文

 捜査機関は、逮捕・勾留中の「被疑者」に対して対象事件についての取調べを行う場合には、例外事由に該当する場合を除き、取調べの全過程を録音・録画しておかなければならない(法301条の2第4項)。
 この条文の趣旨は、取調べの録音・録画により捜査機関に対する心理的な抑制が働き、取調べの適正な実施にも資する点にあります。

イ 問題点

 取調べの録音・録画義務の対象事件は、裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件(特捜事件等)に限られており、さらに例外事由の運用次第で録音・録画をしないことが簡単にできます。
 また、対象事件以外(死体遺棄)の事件での起訴後の勾留中になされた対象事件(殺人)についての取調べを行う場合には、録音・録画制度の対象にはなりません。。

 この問題点は、最近の事件で具体化しており、早急な対応が求められます。すなわち、商標法違反で逮捕・勾留を経て起訴された後、殺人罪で逮捕・勾留しないまま本件である殺人罪の取調べが行われていたにもかかわらず、その録音・録画は一部しか存在せず、その一部の映像を法廷で取調べて自白の任意性を認めて有罪判決に至ったというものです。

 この問題点に関しては、対象事件以外の事件についても取調べの録音・録画が禁止されているわけではないから、捜査機関において、個別の事案における必要性に応じて適切に対処することが求められます。ただし、この必要性を個別に判断してしまっては濫用のおそれがありますので、裁判員裁判対象事件等の重大犯罪の取調べを行う際は、必ず録音・録画をするなどという対応をとる必要があるのではないかと思います。

(2)取調べの録音・録画をした記録媒体の証拠調べ請求義務

 逮捕・勾留中に作成された被疑者の供述調書等の任意性が公判で争われた場合を除き、当該供述調書等が作成された取調べの状況を録音・録画した記録媒体の証拠調べを請求しなければならなくなりました(法301条の2第1項)。
 上記条文に違反してその証拠調べを請求しないときは、裁判所は、決定で当該供述調書等の証拠調べの請求を却下しなければなりません(同上第2項)。

3 今後について

 政府は、この法律の施行後3年を経過した場合において、取調べの録音・録画制度の在り方及び本改正法による改正後の規定の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるとしています。
 我々弁護士としては、その見直しに向けて、運用状況を検証して、より良い法律にするための改善を求め続ける必要があります。
 取調べの録音・録画についても、その範囲を、日常的な弁護実践の積み重ねにより、さらに拡大していくことに努め、次の改正につなげていくことが必要です。