故意の判断要素
例えば、人の胸に刃先の尖った刃物を刺した人が「死ぬとは思わなかった。」と言っている場合、刺した人に殺意があったと思いますか。
直感的に殺意があったと考えられそうですが、そう考える理由を分析してみると、一般的には、胸部には心臓や肺など生命活動を維持する上で重要な器官があるが、刃先の尖った刃物を胸に刺したら心臓や肺などが傷付き、生命活動の維持が難しくなるとの思考過程を経て、死ぬ危険性が高いとの結論に至るかと思います。一般的にこのような思考過程を経るのであるから、行為者についても同様に考え死ぬ危険性が高いとの結論に至っているはずと考えているのでしょう。
裁判所での故意の判断も、被告人の供述のみに縛られず、客観的な行為態様、行為前後の事情、動機などの状況証拠をふまえて行為から結果が発生する危険性が高いことを認識できたかで判断します。
上記の胸を刺した例でさらに、刃物が刃渡り30センチメートル、刺し傷が深さ20センチメートル、刺し傷が7か所などの事情が加わると殺意があったことがより容易に推測できます。
また反対に、胸に刃物を刺していたとしても、行為者が心臓外科医、場所が病院の手術室、刃物が医療用メスである場合には、仮に刺された人が死亡したとしても行為者に殺意があったとは通常考えないでしょう。
故意に関する弁護人の役割
このように、故意について人の内面が問題になるからといって、単にそのようなつもりはなかったと言っているだけでは意味はなく、その周辺の客観的な状況を主張することが故意の有無を左右する重要なポイントとなります。
弁護人は、依頼者である被疑者・被告人の供述を聞きつつ、それを裏付けていく客観的な事実を集めて故意を争う主張をしていくことになります。