3 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の制定

 2014年、刑法の交通事故関係の規定を削除し、代わりに自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)が施行されました。これにより従来刑法で処罰されていた故意犯としての危険運転致死傷罪、過失犯としての過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)は、改正の上、同法で処罰されることとなりました。

4 自動車運転死傷行為処罰法の概要

⑴ 危険運転致死傷罪の処罰類型

①アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
②その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
③その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
⑤赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
⑥通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 ⑥は少しわかりにくいですが、車両通行止め道路(歩行者天国など)や一方通行の逆走などが想定されています。

⑵ 新しい危険運転致死傷罪

 アルコール、薬物または政令で指定する病気(統合失調症、てんかん、再発性失神、低血糖症、躁鬱病、睡眠障害)の影響により、走行中に正常な運転に「支障」が生じるおそれがある状態でその影響により正常な運転が困難な状態に陥ることを処罰対象としています。法定刑は、致死の場合で15年以下、致傷の場合で12年以下の懲役です。  ここに「支障が生じるおそれがある場合」とは、自動車を運転するのに必要な注意力・判断能力・操作能力が相当程度低下して危険である状態をいうとされています。

 なお、政令に定める病気は、その病名であれば該当するというものではなく、例えば、てんかんには、「意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがある」等との限定が付されています。また、逆に、政令の指定する状態にあれば、医師の診断による病名が付されている必要はありません。
 他方、危険運転致死傷罪は故意犯であるため、上記の各状態について、運転者が自覚している必要があります。

⑶ 過失危険運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

 アルコール検査を回避するために現場から逃走し、危険運転致死傷罪の適用を免れる行為が従前見られたことから、その「逃げ得」を許さないようにするために設けられたものです。法定刑は12年以下の懲役ですが、現場から逃走した場合にはいわゆるひき逃げの罪(道路交通法違反)も通常成立するため、法定刑の上限は18年以下の懲役ということになります。

⑷ 無免許運転の扱い

 無免許運転で危険運転致死傷罪等の行為に該当する罪を犯した場合には、罰を加重することとしています。
 無免許運転を危険運転致死傷罪の類型に入れなかったのは、全ての無免許運転が等しく危険といいきることができないことや、事故の発生とそれによる死傷結果が無免許運転を原因とするものとはいいきれないと考えられることからだと説明されています。