そこらじゅうを歩き回ってモンスターを捕まえるスマホゲームが全世界で配信されて以来、このゲームに関していろいろな話題が持ち上がっていますが、いくつかの寺社や公園でのゲームの禁止が公言させる一方、海外ではモンスターを捕まえるために原発などにも入り込んだ人がいるとの話を聞き、ゲームをするためにゲーム禁止場所に立ち入る行為が建造物侵入罪となりうるのかどうかが気になり、建造物侵入罪が成立した裁判例を調べてみました。

建造物侵入罪が問題となる場面

 住居・建造物侵入罪は、窃盗、強盗、殺人などの目的を達成するために住居などに立ち入るときに問題となることが多く、そのためこれらの罪に付随する罪として罰せられることが多く、建造物侵入罪が単独で刑事裁判になることは珍しいです。

 その理由としては、単に建造物の中に立ち入ったというだけでは罪質として非常に軽微であることが多く、検察官が不起訴処分にしていることやそもそも検察官までいかず警察官の捜査で終わっていることが大部分であると考えられるからです。現に私も修習時代に、わいせつ目的で他人の下着を見るために他人の住居ベランダに立ち入った者が、示談をし、反省の態度を示したことなどから不起訴になるところを目の当たりにしました。

 そのような中、以下の裁判例は建造物侵入罪が単独で問題となった事件です。

東京地裁平成20年12月15日判決(以下、「本裁判例」といいます。)

 本裁判例は、性的嗜好を満たすため児童の写真を撮影する目的で運動会開催中の小学校敷地内に立ち入った事案です。

1.建造物

 本罪の客体は、人の住居、人の看守する邸宅・建造物・船舶であり、判例には、自衛隊宿舎の共用部分を「人の看守する邸宅」と判断したもの(最判H20.4.11)や、警察署の塀を建造物の一部と判断したもの(最決H21.7.13)などがあります。
 本裁判例では、客体が小学校の敷地内であり、問題なく建造物と認められています。

2.侵入

 侵入とは、管理権者の意思に反して立ち入ることをいいます。判例には、ATM客の暗証番号を盗撮する目的で銀行支店出張所に立ち入った行為を、銀行支店長の意思を反するものとして侵入と認めたものがあります(最決H19.7.2)。

 本裁判例の場合、小学校という性質から、児童の安全を保護し、不審者の立ち入りを防止するために、平素から関係者以外の校内への立ち入りが禁止されており、運動会当日においても、受付の設置、各所の警備の配置、保護者への名札、リボン、腕章の配布などの措置が講じられていたことから、小学校とは無関係である被告人の校内への立ち入りを管理権者である校長が認めていなかったことは明らかであり、被告人の立ち入りは校長の現実的な意思に反するものであったとされています。

3.侵入の故意

 弁護人は、運動会は公開性の高い行事であるから、被告人に禁じられた場所に立ち入るとの認識がなかったと主張していますが、裁判所は、昨今の社会情勢、保護者・教員等の防犯についての意識向上、被告人も長く小学校教員をしていたことをふまえて、被告人が運動会を広く公開され誰でも自由に立ち入る場であると認識していたことを否定し、故意を認めました。

4.可罰的違法性

 さらに、弁護人は、被告人の行為が建造物侵入罪の構成要件に該当するとしても、刑事罰に処する程度の違法性はないと主張していますが、裁判所は被告人の行為が児童や保護者に与えた不快感、嫌悪感が多大であることなどをふまえて、可罰的違法性を認めています。

ゲーム目的での立ち入り

1.建造物

 寺社や公園の中でも周囲を塀や柵で囲まれているものや参拝・利用時間が決まっているものについては、その敷地内が建造物の一部と認められる可能性が高く、反対に、周囲との境界が曖昧でいつでも訪れることができる場所は建造物侵入罪の客体にはなりにくいと考えられます。

2.侵入

 明確に敷地内でのゲームの禁止が示されている場合に、ゲームをするために敷地内に立ち入ることは侵入に該当するおそれがあります。
 特に、参拝・利用時間外に立ち入ることや禁止を徹底するため警備などを強化している場所へ立ち入っってひそかにゲームをすることは侵入に該当するおそれが高いと考えられます。
 また、そもそもゲームとは無関係に何人の立ち入りも認めていない場所への立ち入りは当然に侵入となりえます。

3.故意

 故意については、その場所でゲームが禁止されていることがテレビ等で大々的に話題となっていたか、その場所周辺にゲーム禁止についての掲示等がどれくらいされていたかなどをふまえて、ゲーム禁止を認識することができたかが判断されることになります。

4.可罰的違法性

 上記1ないし3に該当する場合でも、刑事罰に処する程度の違法性はないと判断され、検察官に送致されず、又は不起訴になる可能性は大きいと考えられます。
 しかし、侵入した場所の性質、進入方法の悪質さ、見つかった後の態度などによっては可罰的違法性があると判断されるおそれがあります。

 このように建造物侵入について争うことができる点は多々あり、刑事裁判には至らないことも十分ありえますが、逮捕される、又は検察官の起訴不起訴の判断を受けることで前歴として記録が残りますので、ゲームは無茶をせず節度を守って楽しみましょう。