首相官邸に無人飛行機(いわゆるドローン)を落下させたとして、威力業務妨害罪等で起訴された被告人の初公判が8月13日に開かれました。この事件は、大きな注目を集めたものであり、ご記憶の方も多いでしょう。

 報道によると、初公判で被告人・弁護人は、「無罪」を主張したとのことです
(参照:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO90529880U5A810C1CC1000/
 この記事では、いくつかの弁護人らの主張が引用されています。すなわち、「ドローンを飛行させたが落下は確認しておらず、『威力』にあたるのかも分からない」、「落下してから約2週間も気付かれておらず、業務妨害にあたらない」、「原発再稼働反対の表現や請願にあたり、憲法上認められた行為だ」などです。

 このうち、「落下を確認していない」は、犯罪事実の認識がなかったこと、すなわち「故意」がなかったとの主張と思われます。「威力にあたるかわからない」及び、「業務妨害に当たらない」は、被告人がしたとされる行為が威力業務妨害罪の定める犯罪の成立要件=構成要件にあたらないとの主張でしょう。また、最後の主張は、仮に被告人の行為が犯罪の構成要件にあたるとしても、許された行為として違法性がないとの主張だと思われます(違法性阻却事由といいます)。

 ある人を罪に問い、処罰を加えるためには、その人の行為が刑法その他処罰を定める法律の構成要件にあてはまり、その行為が違法ではないとされる理由がなく、さらに、その人に責任を問えない事情もなくて、かつ、処罰を妨げる理由もないというすべての条件がそろう必要があります。

 例えば、刑法第199条は殺人罪を定めていますが、ある人を殺人罪で処罰するためには殺人罪の定める客観的構成要件である「人を殺す」行為がなければなりませんし、これに加えて主観的構成要件として、自分が客観的構成要件にあてはまる行為をしていることを認識し、かつそれにより人の死という結果が生じても構わないと考えていること(「認容」といいます。)、すなわち故意も必要とされます。これらが揃うと構成要件該当性が認められることになります。構成要件に該当する行為は、原則として違法かつ有責とされます。

 しかし、例えばその行為が正当防衛の条件を満たすものである場合には、構成要件に該当する行為であっても違法ではないものとされます(刑法第36条第1項参照)。これが違法性阻却事由の代表例です。
 また、行為者が重度の精神障害等を患っているような場合には、構成要件に該当し違法な行為をしていても、責任がないとされることもあります(刑法第39条参照)。これを責任阻却(事由)といいます。
 このほか、例えば子供が自分の親のお金を盗んだなどの場合、構成要件に該当し違法で有責な行為であっても、処罰しないとされます(刑法第244条参照)。

 以上が刑事処罰の基本的な構造です。

 威力業務妨害罪の構成要件にはいろいろと論点もあり、「威力にあたらない」「業務妨害ではない」との主張についても興味深いところですが、そろそろ紙幅が尽きました。機会があれば、これらの点についてもみてみたいと思います。
 いずれにしても、この事件の公判の行方が注目されます。