今回は、往来危険罪についての裁判例をご紹介いたします。

 往来危険罪は、刑法125条に規定されており、①鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた場合や②灯台若しくは浮標を損壊し、又はその他の方法により、艦船の往来の危険を生じさせた場合に成立し、2年以上の有期懲役に処せられます。

 ニュース等で報道される線路に積み石した事案は、本罪の対象になります。なお、実際に、電車を転覆させて、乗客を死亡させた場合には、汽車転覆等致死罪(刑法126条3項)が成立します(法定刑は死刑又は無期懲役です。)。

 往来危険罪が成立するには、汽車又は電車の往来の危険を生じさせることが必要であり、今回紹介する裁判例はこの「往来の危険」が発生するか問題になったものです。

 東京高裁昭和62年7月28日判決は、地下鉄ホームから軌道上に鉄製のごみ箱2個を投げ込んで放置したという事案について、線路に置かれたごみ箱の大きさや重さ等から「電車が,(中略)もし急制動も停止もせずに正規のとおり進行していたとすれば,ごみ箱との接触は避けられず,それに起因して電車が脱線するなどの危険があったこと」を認め、往来の危険が発生を認めました。

 また、最高裁平成15年6月2日決定は、線路沿いの土地をパワーショベルで掘削した行為によって、線路脇の鉄道用の電柱付近の土砂が崩壊して、掘削断面上端部が電柱に迫るとともに路盤の法面が急傾斜になったことで、現場の国鉄職員も電車の脱線に至るなど極めて危険な状況に至ると認識していた事案について、往来の危険の発生を認めました。

 いずれの事案においても、個別的・具体的な行為とそれによって生じる危険性を認定し、往来の危険について判断しております。