先日、2歳児の長男Aと3歳児の長女Bをプラスチック製の収納ケースに閉じ込めて死なせたという件で、AとBの父親Xが逮捕されました。
Xは、Aに対する殺人罪及びBに対する殺人未遂罪で捜査されていると報道されています。
殺人罪は、人を殺した場合に成立し(刑法199条)、殺人未遂罪は人を殺そうとしたがその目的を遂げなかった場合に成立します(刑法199条、203条)。
殺人罪も殺人未遂罪も、まず殺人罪の「実行に着手」する必要があります(刑法43条本文参照)。
では、殺人罪の実行に着手するとは、どういうことでしょうか。
殺人罪の実行行為は、故意に他人の生命を、自然の死期に先立って断絶させることです。かなり抽象的ですね。それはそうだけどその中身は一体何なのかと言われると、何か言っているようで言っていないようなという印象ではないでしょうか。
具体的に観察して、その行為じたいに、死の結果を発生させるだけの危険のある行為のことをいいます。
本件では、身長約90cmのAと、身長約96cmのBを収納ケースに一緒に閉じ込めた行為が、A及びBに死の結果を発生させるだけの危険のある行為といえるかどうかが問題です。
殺人罪の実行行為となるかどうかは具体的に見なければいけませんから、閉じ込められたケースの状況も重要な検討要素です。
幅約80cm、高さ約30cm、奥行き約40cmの、外からロックがかかるプラスティックケースに、さきにぬいぐるみ等のおもちゃが十数点敷き詰められていたところに、先にA、次にBを重ねて入れ、ケースを外からロックした行為について判断します。
身長よりも幅の小さなケースに入れられるのですから、AもBも、手足首を曲げて縮こまる形になり、非常に窮屈な姿勢にならざるを得ないでしょう。特にAは、Bの下敷きになりますし、ケースの底側の方がフタ側よりもおもちゃが密集していたと考えられます。3歳女児の平均体重は、13.5~14.5kg程度ですから、Aは、十数点のおもちゃと、14kgほどのBの体に挟まれて、全く身動きが取れなかっただろうと想像します。
まだ2歳や3歳の子たちですし、足場も悪いですから、内側からロックを外すことはもちろん、ケースを壊すことも恐らく困難でしょう。大人でも可能かどうかわかりません。
Aは結局、窒息による低酸素脳症により死亡したそうですが、このように四方から圧迫される状況ですから、胸腹部に十分なスペースを取れず、空気を吸い込めなくて窒息するということは当然でしょう。
結局Aがどういうメカニズムで死に至るかということまでは明確に理解していなくても、「この中に子どもをふたりもぎゅうぎゅうに詰めて外からロックしたら、空気が足りなくなって死にそう」ということはわかるはずです。
したがって、本件では、身長約90cmのAと、身長約96cmのBを収納ケースに一緒に閉じ込めた行為は、A及びBに死の結果を発生させるだけの危険があり、殺人罪の実行行為にあたると考えられます。
ただし、報道によれば、Xは「過去に同じことを何度もやったが(AもBも)死ななかった」と供述しているとのことです。
「以前も大丈夫だったから今回も大丈夫だろう、死なないだろうと思った、まさか死ぬとは思っていなかった。」ということであれば、これは、殺意を否認する供述と考えられます。
殺意が否定されれば、殺人罪ではなく傷害致死罪の問題となります(2014年11月6日刑事ブログ「殺人未遂事件を通して・・・」)が、これも子細な検討が必要です。
今回の件が、「普通に考えれば人が死にそうな行為を数度実行しており、過去の場合には幸運にも人が死ななかっただけだ」となるか、「過去に何度やっても人が死んでこなかった行為であるのに、今回は不幸にも人が死んでしまった」となるか・・・
皆さんは、どう思われますか。