嫁・姑間の問題は古来よりあるもので、根深いものがあります。私たちも、嫁・姑間の反りが合わないということで、離婚問題にまで発展する事例は、日々見聞きしているところです。
 ところが先日、離婚問題を一足飛びに越えて、殺人未遂事件にまで発展してしまった事例があったようです。今回はこのニュースを取り上げてみます。

 殺人未遂事件ということは、人に対して、殺意をもって、人を殺すに十分な攻撃を行ったけれども、結果的に相手が死ななかったという場合に成立します。この「殺意」というのは、攻撃当時の犯人の内心の問題ですから、基本的にその有無は本人にしかわかりません。しかし、殺意にはそれなりの行動が伴うものです。そのため、生じた結果等から、当時の犯人の心の内を「推認」することが可能とされています。

 これだけでは分かりにくいでしょうから、次の2つを比較してみてください。

 ①非力な少女が赤ちゃん用の爪切りで力士の膝にかすり傷を負わせた場合と、②大人の男が肉切り包丁で小学生の心臓付近に突刺し傷を負わせた場合だと、どちらの場合に殺意があると認められると思いますか。
皆様のご想像通りだと思いますが、正解は②です。

 殺意がある場合、人は、攻撃に向いた道具を使うことが多いです。攻撃に向いた武器というのは、刃がついていたり、かなりの重量があったり、そもそも殺傷用に開発されたものであったりします。刀や銃が典型ですが、包丁、ロープ、ビール瓶、自動車なんかも考えられますね。
 これは武器対等といって、相手との人数差、性差、年齢差、力差等が影響することもあります。

 また、殺意があるときには、人は相手に対して攻撃箇所を選ぶことが多いでしょう。首、頭、顔、胸、腹といった、主要な臓器のある部分を選んで攻撃を加えていれば、殺意は認められやすいといえます。

 さらに、攻撃の回数や、攻撃が身体にどの程度強く深く及んだのかから、攻撃の「執よう性」がうかがわれると、殺意は認められやすくなります。

 その他の要素もありますが、ニュースに戻ってみましょう。

 今回は、73歳の素手の女性Aと、33歳の鍋をもった女性Bです。
 BはAの首を絞めたうえ、続いて鍋で頭を叩きました。
 この条件だけで検討した場合、BにはAに対する殺意があったといえるでしょうか。

 女性同士ではありますが、年齢からいって33歳のBのほうが力が強いと考えられるので、一般的に考えると、BはAより優位です。さらに、Bは鍋を持っている分、攻撃力は素手よりも高いでしょう。すると、BのほうがAよりも攻撃力は年齢・武器の点から高いと考えられます。この攻撃力の差は、殺意がある方向に傾く要素です。

 次に、Bの武器を見てみましょう。
 Aの首を絞めた段階では、Bの武器はありません。Aの頭を叩いた段階では、Bの武器は鍋ですが、鍋は人の殺傷に適した道具とは言い難いですね。そのため、Bの武器の性質は、殺意がない方向に傾く要素です。

 次は、BがAに対して攻撃を加えた部位です。
 最初に首、次に頭ですが、これはいずれも体のなかで重要な部分ですから、ここに対する攻撃は、殺意がある方向に傾く要素です。

 最後に、BがAの首を絞めた後にさらに叩いたというのは、攻撃が連続的ですから、執ようといえるかもしれません。その場合は、殺意がある方向に傾く要素です。

 すると、ここまでを総合的にみると、殺意は認められる方向になりそうです。しかし、今回のニュースの事例もそうでしょうか。
 殺意は、最初に述べた通り、結局は「推認」にすぎません。また、殺意を推認するための「その他の要素」を、上のAとBの例題では考慮していません。
 たとえば、他に誰かその場にいたのか、「首を絞めた」「頭を叩いた」とはそれぞれどの程度の強さなのか、攻撃時間はどの程度だったのか、AとBの体格はどうだったのか等の検討を経た結果、やはり殺意は認められないと判断される可能性があります。

 こういった細かな点を漏らさず検討することで、不当な処罰を回避し、適正な裁判の実現に貢献するのも、弁護士の仕事ですお困りの際にはぜひご相談ください。