1.はじめに

 先日、マイナンバー制度導入に絡むシステム契約を受注できるよう便宜を図った見返りに、現金を受け取ったとして収賄の疑いで厚生労働省の情報政策担当参事官室の室長補佐(以下、「A」といいます。)が逮捕されました。

 世間では、自身のマイナンバーが届いていないのに、早くも逮捕者が出たかと色めきたっていますが、今回はマイナンバーについてではなく、収賄罪について検討してみようと思います。

2.贈収賄罪とは

 公務員が職務行為に対して、賄賂をもらったり、要求したり、約束すれば収賄罪が成立し、5年以下の懲役に処されます(いわゆる単純収賄罪の場合)。

 これに対して、賄賂を贈ったり、申し込んだり、約束した者は、贈賄罪が成立し、3年以下の懲役又は250万円の罰金に処されます。

 賄賂を受け取る時期は、職務執行の前後を問いません。

3.本件について

 報道では、Aは社会保障担当参事官室の担当者として、病院や薬局、スポーツジムなどが利用者の健康に関する情報を共有し、効果的な治療や指導を行うなどのモデル事業の企画立案などを担当する職務や医療機関等へのマイナンバー制度導入に関する規格競争入札で、入札に参加した企業の提案をみて審査する評価委員会のメンバーの人選等に従事していたとされています。

 医療・介護分野では、マイナンバー制度導入により①高額療養費の決定等に関して所得証明書等の添付が不要となったり、②傷病手当金の支給申請者に関する障害厚生年金等の給付状況の確認等異なる制度間で給付調整等をより確実に、迅速に行うことができるようになります。他にも、③医療機関が患者の保険資格を確実に確認することができたり、④転居した場合であっても、継続的に検診情報・予防接種履歴が確認できるようになり、医療・介護等のサービスの質の向上等に資することとなります。

 本件では、このようなシステム導入にあたり、「厚労省、霞が関きってのIT通」と評されていたAがマイナンバー制度のシステム契約を受注できるようIT関連企業に便宜を図った見返りに、現金等を受け取っていたようです。

 Aは、賄賂を収受したこと、自ら要求したことは認めているようですから、単純収賄罪は成立しそうです。

 今後の捜査では、Aが「請託」いわゆる職務に関し一定の行為を行うことの依頼を受けたか否か(受託収賄罪の成否)、及び、Aが収賄によって、「不正な行為」又は「相当の行為をしなかった」か否か(加重収賄罪の成否)が問題となると思われます。

 なおAは、普段、スーツから靴まで有名ブランドで固めており、全身で合計すれば50万円はくだらない格好で、連日六本木の高級店に繰り出していたようで、いわゆるイタイ人間だったようです。周りの官僚たちは気付かなかっただけか、あるいは気付いていたにもかかわらず放置していたのか、いずれにしても霞が関の官僚は賄賂に関して意識が低すぎるようですね。