平成27年5月12日のニュースに、次のようなものがありました。

判決一部、宣告忘れる=神戸地裁明石支部

 神戸地裁明石支部の裁判官が4月、40代の男性被告2人に有罪判決を言い渡す際に、罰金を完納できない場合に労役を課す「労役場留置」の期間を告げ忘れていたことが12日までに分かった。検察官がミスに気付いたが、訂正はできないため、正確な判決を求め控訴した。(時事通信社)

 刑事訴訟の審理が終結すると、裁判体において最終的な結論が内部的に形成されます。この結論を外部に表示する行為が、裁判長による「判決の宣告」です(刑事訴訟法342条)。

 判決の宣告をするには、主文及び理由を朗読するか、主文の朗読に加えて理由の要旨を告げなければならないとされています(刑事訴訟規則35条2項)。なお、民事訴訟の判決では、判決の言渡し前に必ず判決書が作られている必要があります(民事訴訟法252条)が、刑事訴訟の場合には判決書の作成が宣告後になっても構いません。
 ただし、条文上「朗読」とされていることから、判例上、全く何も見ないで宣告することは許されず、原稿等の何らかの書面を準備することが必要とされています。

 なお、このような手続から、宣告と判決書の記載が異なった場合はどうなるのかとの疑問がわくでしょう。
 これについては、法が判決の告知方法を宣告としていることから、内容としては宣告が優先されることになります。

 裁判長が朗読を誤り、途中でこれに気付いた場合には、これを訂正したり、改めて宣告しなおしたりすることは可能だとするのが判例です。しかし、判決を宣告した公判期日が終了した後には、原則として変更や撤回はできないとされています。

 そこで、宣告が終わってしまった判決に誤りがあった場合には、ニュースのように上級審で改めて判決してもらう必要があるのです。ちなみに、宣告と判決書の内容が異なる場合についても、訴訟手続の法令違反として上級審で破棄されることになるとされています。

 このように、刑事訴訟手続は厳格な定めに従って運営されています。これは、ある人を有罪とし、刑罰を科すことが大きな人権制約であるとの観点からだと考えられます。

 裁判官といえども人間であり、ミスをすることはあるのでしょう。とはいえ、ミスにより被告人をはじめ、関係人がさらに審理に携わらなければならず、裁判所としても業務が増えることになり、有限な司法資源の浪費にもつながる結果となりました。われわれ弁護士は、弁護人として刑事訴訟手続に関与することになるわけですが、細心の注意を払って手続に関与していかなければならないと、このニュースに接して自戒する次第です。