皆さんもご存じの通り、ボクシングではグローブをはめて闘います。
もちろん、その理由は、選手の顔面と、殴る拳の保護にあります。要するに、グローブをはめたほうが素手よりも安全だと考えられているんですね。
プロボクシングの試合では、8オンスのグローブをします。アマチュアの公式戦では10オンス、スパーリング大会では12オンス、ジムでのスパーリングでは14オンス、オヤジ・ファイトでは16オンスといったところでしょうか。オンスの数字が上がるほど、グローブが大きくなり、重さも増えます。
大きいくて重いグローブほど安全だと考えられているんですね。
でも、本当にグローブは素手よりも安全なのか、また大きいグローブほど安全性も高まるというのは本当なのか、ということが最近指摘されるようになりました。
物理学的に言うと、
圧力=衝撃力÷接触面積
という関係が成り立ちますので、大きいグローブほど接触面積が増えますから圧力も大幅に減少します。
この点では、確かに大きなグローブほど安全だと言えそうです。
でも、実際にグローブをつけてスパーリングをしているボクの経験から言わせると、殴られたときに頭に”ズン”と来るんですね。パンチが重く感じて頭がクラッとするんです。
つまり、グローブをしていても、けっこう効くんです。
この点に関して、東京大学理学博士(理論物理学)の教授である吉福田康郎教授が、素手・6オンス・8オンス・10オンスで、パンチの衝撃力を比較するという実験を行ったそうです(「格闘技の科学」サイエンス・アイ新書)。
この実験の結果分かったことは、どの大きさのグローブでも、その衝撃力は素手よりも大きかったそうです。
ということなので、グローブは、素手に比べて脳震盪を起こしやすいと言えそうです。
では、6オンス・8オンス・10オンスの衝撃力の順番はどうでしょうか?
物理学的に言えば、接触面積が大きくなるほど衝撃力も強くなるはずですから、大きいグローブほど衝撃力が高まるはずです。
そうすると、10オンス>8オンス>6オンスの順番になるという仮説が成り立ちそうです。
しかし、実際の実験結果は、
8オンス>10オンス>6オンス
だったそうです。
6オンスと10オンスの比較では、確かに接触面積が大きくなる10オンスのほうが衝撃力も上まわったのですが、8オンスと10オンスでは逆に接触面積が小さいはずの8オンスのほうが衝撃力が大きかったんです。
ここからはボクの仮説なんですが、もしかするとパンチのスピードが影響しているのではないかと思います。
同じスピードであれば、接触面積が大きくなるほど衝撃力も上がるはずなのですが、グローブが重くなればその分パンチのスピードは落ちます。スピードの減少は、衝撃力を低下させる効果を持ちますよね。
そうすると、接触面積が増えた結果衝撃力が高まるプラスの効果と、スピードが落ちることによって衝撃力も落ちるマイナスの効果のどちらが大きいか、ということになるのではないかと思います。
6オンスと10オンスの比較では、接触面積拡大に伴うプラスの効果が上まわったのに対し、8オンスと10オンスの比較では、グローブが大きくなることでスピードが低下するというマイナスの効果のほうが上まわったんでしょうね。
まとめると、必ずしもグローブが大きく重くなればなるほど衝撃力が上がるとは限らないが、素手よりもグローブ着用のほうが脳に対する衝撃は大きくなるので危険性も高まると言えそうです。