デフレ対策の一環として、政府がインフレ率を年2%に引き上げることを発表しました。
 デフレのせいで不景気なわけだから、インフレを起こして景気回復を図ろうという意図のようです。また政府は馬鹿なことを始めましたねえ。

 さて、ここでちょっと経済学の講義になりますが、インフレには、大きく分けて次の3つがあります。

1,demand-pull inflation
2,cost-push inflation(stagflation)
3,money supply increase

 demand-pull inflationは、需要が増大したことによって起こるインフレです。需要が増えると経済は元気になるので雇用も増大し、景気はよくなります(このため、よいインフレとも呼ばれます)。

 これに対し、cost-push inflationは、需要は変わらないが、供給が減少したことにより発生するインフレです。このインフレは、わかりやすく言えば、その財やサービスを求める人は従来通りいるのに、肝心な財やサービスの供給量が減少するために起こるインフレで、失業も伴います(このため、悪いインフレとも呼ばれます)。

 最後は、通貨供給量(money supply)を増やすことによって起こるインフレです。今回政府がやろうとしているのはこれです。これは先の2つと比べると、ちょっと分かりにくいですよね。
 なぜ通貨供給量を増やすとインフレが起こるのか。極端なケースですが、例えば皆さんのお財布の中のおカネを2倍にするため、全国民におカネをばらまくという政策を採ったとしましょう。
 さて、これで皆さんは経済的に豊かになれるでしょうか?

 答えは否です。これをやれば、物価は2倍になるだけです。通貨の価値も需要と供給の関係で決まります。社会における取引需要が何も変わらないのに、流通しているおカネの量が2倍になっても、おカネの価値が半分になるだけです。結局、おカネの価値には、1000円とか10000円とかいう数字には意味がなくて、そのおカネの購買力できまります。通貨に対する需要が増えていないのに、供給量を2倍にすればおカネがだぶつくだけで、その価値が半減するだけ…。だから、おカネを配っても貧困を解決できないんです。

 それだけではありません。money supplyの増加といっても、全国民におカネを配るわけではありません。どのように行われるのかというと、日銀が市中の銀行に発行する通貨を増やして、その結果民間銀行による企業への貸し付けの増加で増えていく、というメカニズムなんです。企業への貸し付けが増えれば、その分市場に流通する通貨も増えます。

 しかし、この方法は、全国民に対しておカネを配る方法に比べると、物価上昇の歪みを生みます。おカネが全国民に平等にながれていくわけではないからです。政府は、「物価が上がれば、給料も上がる」なんて言ってますが、これもインチキです。
 賃金には、いわゆる「下方硬直性」というのがあります。これは分かりやすく言うと、「賃金は下がりにくい」という意味です。では、賃金は「上がりやすい」のでしょうか?当然ですが、賃金が下がりにくければ、その反射的効果として上がりにくくもなります。会社が気前よく賃金を上げたが最後、いざ景気が悪化して下げようとしても下げられなくなります。であれば賃金を上げることに会社は慎重にならざるを得なくなるはずです。
 とすると、インフレが生じているのに給料が上がらなければ、需要は今以上に減少します。その先に訪れるのは、より深刻なデフレでしょう。

 需要が冷え込んだ結果デフレになっているわけだから、本来あるべき対策は需要を刺激して増やすことでしょう。その結果生じるインフレであれば問題ありません。ところが政府は、消費税を引き上げてさらに需要を冷え込ませ、デフレの原因をつくっておきながら、通貨供給量を増やしてインフレを起こそうとしているんでしょう?

 馬鹿ですねえ。政治家も日銀も本当に馬鹿ですねえ。