”予防的乳房切除”
です。
乳がんではないのに、将来の乳がんを予防して乳房の切除を希望する女性が増えているそうなんです。
現代の医学では、遺伝子レベルで将来乳がんに罹患する可能性の高低がわかるそうです。それも簡単な血液検査で。
日本人の女性は、15人に1人が乳がんになると言われています。女性にとっては、決して他人事とは言えない、恐い病気なんです。
乳がんの手術も進歩し、乳房温存術の適応症例も増えているのに、予防的乳房手術の普及は、この流れに逆行しますよね。なぜなら、乳房温存術は、乳がんになった人が乳房を温存したいというニーズが背景にあるのに対し、予防的切除術は、乳がんでないのに乳房を切除したいというニーズだからです。
乳がんになった女性にとっては、下手に乳房を温存して将来再発するリスクを抱えるよりも、乳房をきれいに切除し、ついでに乳がんに罹患していない乳房も切除してしまったほうが安心できます。
したがって、予防的乳房切除の普及は、乳房温存術の進歩を失速させる可能性を秘めていると思います。
今後、益々乳房再建術の技術が進歩すると思いますので、そうなれば乳房を温存する必要はありませんから。
そして、美容の観点からも、この点では多くの女性にとって、利害が一致します。
形が良く、美しい巨乳に憧れるのが女心だと思いますので、乳房を切除するついでに、美しいおっぱいを手に入れようとするでしょう。
そうすると、乳がんも予防できて、かつ立派な乳房が手に入るわけですから、まさに一石二鳥。
これからは、乳房温存の時代から、乳房の予防的切除と再建の時代へと移っていくと思います。
でも、予防的乳房切除術は、まだ始まったばかりで歴史の浅い術式です。今後、様々なトラブルが予想されます。
まず思い浮かぶのは、悪徳業者の跋扈です。この手術、すごくおカネの匂いがプンプンするんです。15人に1人が乳がんになるわけですから、ほとんどの女性が乳がんに対する潜在的恐怖心を抱いています。簡単な血液検査で「乳がんになる可能性がありますね」とその恐怖心を煽り、予防的切除に誘導することは可能です。
テレビに出ていた美容形成の外科医は、「私の病院であれば、片側の乳房で切除と再建で1時間程度、両側の乳房でも2時間で出来ます。そして、翌日には退院できます」などと、そのお手軽感をアピールしていました。
この医師が悪徳であるというつもりはありませんが、こんなことを言われると、乳房切除の敷居はかなり下がります。儲かりますよね、これは。
美容形成の分野がもっともトラブルが多く、医療紛争になりやすいということは忘れてはいけません。
しかも、この予防的切除。実は、乳房を完全に切除したからといって、将来乳がんに罹る可能性がなくなるわけではないそうです。罹患率50%の女性が、予防的切除によってその罹患率が5%に下がったからといって、もしその女性が乳がんになったら、「あなたは運が悪い。その5%のほうに入ってしまいましたね」と、医師は逃げを打てます。これはトラブルを予感させます。
まだまだ発展途上の分野ですから、メリットとデメリットをよく考えて決める必要がありそうです。
また、どうしてもこの手術を受けたいと思うのであれば、手術を受けるのは、遺伝子診断をしてもらった病院とは違う医療機関を選ぶ、などといった工夫が必要かもしれません。