今回も、ボクの交渉術のお話を書きたいと思います。
上のボクの著書の帯に、
カネは「貸した側」より、「借りた側」が強い!
と書いてありますが、この意味分かりますか?これが分かる人はおそらく交渉経験者だと思います。
例えば、XさんがYさんに100万円貸したとしましょう。Yさんは、返済期日がきてものらりくらりと返しません。
さて、裁判ではなくて、交渉=話し合いでXさんが貸した100万円を回収するためにはどうすればいいでしょうか?
交渉は、理論的には1円から100万円の範囲で成立する余地があります。もちろん、Xさんにとっては、100万円全額回収するのが理想です。Xさんの経済的価値の最大化は、いうまでもなく100万円全額回収することですよね。裁判ではなくて、交渉でこれを実現することは容易ではありません。借用書があっても無駄です。なぜって、交渉はただの話し合いですから。
そして、Xさんにとっては、10万円で交渉をまとめるのよりも20万円の方が、20万円よりも50万円のほうが、交渉成立を達成することは困難です。額が上がれば上がるほど、交渉成立がどんどん難しくなっていくことは容易に分かりますよね。
では、Yさんにとってはどうか?Yの利害は、この逆です。金額が低ければ低いほど好ましい状態です。そして、Yさんの理想とする経済的利益の最大化は、一銭も支払わないことです。つまり、0円。
さて、Yさんがこの理想を実現するにはどうすればいいでしょうか?
これも分かりますよね。Xさんのいかなる提案も拒絶して、
No!と言い続ければよいのです。
交渉を成立させるのは難しいですが、交渉を決裂させるのはいとも簡単です。Noと言えばいい。Yさんは、Noと言うだけで、自己の経済的利益を最大化できるんです。
どうですか?交渉を何とかまとめたいと考えているXさんと、交渉を決裂させたいと考えているYさんとでは、こんなに立場が違うんです。
こういうパワー・バランスを理解せずに、「あいつは、ひどいヤツだ!貸したカネを返さないなんで…」と怒ってみても始まりません。
このような利害状況の中で、交渉をまとめるために、Xさんは何をすればいいのか。
Yさんを「おカネを返さないと困る」状況に追い込んで、Yさんの利害状況を変えるしかないんです。
その方法は、ゲーム理論的に言うと、Threat(=脅し)です。誤解しないでほしいのは、法律的な意味での脅しではありません。本当に脅してしまうと、場合によっては恐喝罪が成立してしまいます。自己の債権を回収する手段であっても、脅しを使えば恐喝罪が成立する、というのは、大審院時代からの判例です。
ボクが言いたいのは、刑法犯になるような脅しではなくて、交渉が決裂した場合のYの不利益の提示です。例えば、刑事告訴するとか、民事裁判を起こすとか…。
そもそも貸したカネを返さない人に善意や誠意をもとめても意味がありません。交渉のパワー・バランスの本質は、この”脅し”なんです。
ただ、この”脅し”のテクニックは、使い方を誤ると、本当に犯罪になってしまいますので注意が必要です。
犯罪にならないように、これを上手く使いこなせれば、その人は、まさに”交渉のプロ”と言えるでしょうね。
こんなエッセンスをボクの著書の中から学び取ってくれれば望外の幸せです。