一般的に交通事故の賠償は、加害者が加入している任意保険会社によって行われます。この場合、最終的な賠償金の支払いは、示談が成立したときに、任意保険会社が自賠責保険からの支払分も含めて一括して被害者に支払い、支払った後に任意保険会社が自賠責保険会社から自賠責の支払分を回収するという方法がとられることが多いです。このような支払制度を「一括払い」といいます。

 そして、任意保険会社は、示談が成立したときに自賠責保険からの支払額がどれくらいになるのかを示談成立前に算定するために、事前に後遺障害の等級認定を損保料率機構の調査事務にしてもらいます。これを「事前認定」といいます。これに対して、被害者自ら自賠責保険会社に後遺障害等級認定の申請を行い、自賠社から賠償金を回収する制度を「被害者請求」といいます。

 この「事前認定」と「被害者請求」は、どちらかを行ったら、もう一方は行えないという関係にも思えますがそんなことはありません。

 たとえば、事故後、治療費等を任意保険会社に支払ってもらい、後遺障害等級の認定も事前認定で行ったが、過失割合が問題となり示談成立までにしばらく時間がかかりそうという場合に、後遺障害部分について被害者請求をすれば、示談が成立しなくても自賠社から後遺障害部分の賠償金の支払いを受けることができます。

 被害者請求をする場合、どうしても治療を受けた病院から医療記録等を被害者自らが集めなければならず、かなり手間ですが、事前認定を受けておけば、医療記録等は任意保険会社が病院から集めてくれています。それを渡してもらって被害者請求をすれば、自分で医療記録等を集める手間が省けます。そして、後遺障害部分については、示談が成立する前に自賠社から支払ってもらえますので、先に一定金額の支払いを受けることができます。

弁護士 竹若暢彦