こんにちは。今回は、平成4年6月25日最高裁判決についてお話ししたいと思います。

 事案は、首都高速道路上に停止していた被害者の車両に、加害者の車両が衝突したというものです。被害者は、頭部外傷等の傷害を負いましたが、事故に遭う1ヶ月前に一酸化炭素中毒に罹患していました。その後、被害者は、精神障害のため事故から3年後に呼吸麻痺で死亡しました。

 この事案では、一酸化炭素中毒という体質的疾患が損害の拡大に寄与したとして、素因減額を認めるべきか否かが争われました。

 この点、最高裁は、

「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患をしんしゃくすることができる」

と判示しました。そして、そのうえで、被害者が、精神障害を呈して死亡するに至ったのは、事故による頭部打撲傷と事故前に罹患した一酸化炭素中毒とが競合することにより、一酸化炭素中毒による精神障害が顕在化したと推認し、右一酸化炭素中毒の態様、程度その他の諸般の事情をしんしゃくし、損害の50%を減額をした原判決の判断を是認しました。

 本判決以前には、追突事故により外傷性頭頸部症候群との診断で10年以上入通院をした被害者に心因的要因(自己中心的で自己暗示にかかりやすく、神経症的傾向が極めて強い性格等)を認め、素因減額を認めた昭和63年4月21日最高裁判決がありました。しかし、当時は、昭和63年判決は、心因的要因の場合に素因減額を認めただけであり、体質的な疾患の場合は、素因減額は認められないという見解も根強くなされていました。

 本判決は、体質的疾患の場合も素因減額を肯定した点で、意義のある判決となっています。