症状固定後の治療費の賠償は、原則として認められません。これは、症状固定が「傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療(基本的に実験段階又は研究的過程にあるような治療方法は含まれません)を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態」を指し、症状固定後の治療は傷病の治療に有効ではないからです。

 しかし、症状固定後の治療費の賠償も、認められる場合があり、これには様々なパターンがあります。

 例えば、症状固定して症状の改善は望めなくとも、症状の悪化を防ぐための治療費が認められたものとして、被害者が症状固定時39歳の女性で、脳に回復不能な障害を負った場合の筋肉拘縮を防止するための症状固定後の医療費平均余命42年間分(大分地方裁判所平成6年1月14日判決)、植物状態の被害者につき現状維持のため将来の治療費及び自宅療養費(東京地方裁判所平成8年2月20日判決)などがあります。

 また、右大腿部切断の症状固定後に、義足を作成するための通院費用、治療費等の賠償を認めた事例もあります(名古屋高等裁判所平成2年7月25日判決)。

 特殊な事案としては、入院中症状固定となり、転院を要請されたものの適当な通院先が見つからず、自宅介護の体制が整うまで病院の了解を得て継続した症状固定後132日分の治療費の賠償を認めたものがあります(大阪地方裁判所平成15年12月4日判決)。

 このように、症状固定後の治療費の賠償が認められる事案もあります。しかし、以上に紹介したように症状固定後の治療費の賠償が認められる事案には様々なパターンがあり、実際に賠償が認められるかの判断は難しいと思います。そのため、症状固定後の治療費の賠償を請求したいと考えた場合は、弁護士に相談されることをお勧めします。

弁護士 竹若暢彦