皆様こんにちは。

 本日は、逸失利益のうち、会社役員の基礎収入額の認定についてのお話をさせて頂きます。

 交通事故によって傷害を負って後遺障害が残ってしまった場合には、逸失利益の賠償が認められます。逸失利益の算定は、事故当時の被害者の収入を基礎として判断されます。そして、被害者の収入について、被害者が普通のサラリーマン等の給与所得者であれば、当時得ていた給与を基礎として逸失利益を算定します。しかし、被害者が会社役員であった場合には、少々事情が異なってきます。

 そもそも、逸失利益とは、「後遺障害により労働能力が減少していなければ得られていたであろう利益」のことを指します。

 そして、給与所得者はその給与すべてが労働の対価と考えられることに対し、会社役員の役員報酬は、労働の対価だけでなく、役員の地位にあること自体に対する報酬や、利益配当等の要素を含むことがあります。このような場合、賠償の対象となる逸失利益は、労働の対価とされる部分のみであり、事故当時の役員報酬全額が逸失利益算定の基礎収入とされるわけではありません。

 具体的に役員報酬のどの部分が労働の対価であるかは、会社の規模や営業状態、役員の職務内等を考慮して判断されます。例えば、小規模な会社で、役員の職務内容が従業員とほとんど変わらないようであれば、役員報酬の大部分が逸失利益算定のための基礎収入とされる可能性は高いといえます。裁判例には、工務店の代表取締役につき、従業員がパート1人で、営業よりも大工仕事や工事現場などの仕事を主に行っていたところ、後遺障害によりこれらの仕事ができなくなってしまったケースについて、事故前の役員報酬全額を逸失利益算定の基礎収入としたものがあります(東京地方裁判所八王子支部平成16年3月25日判決)。

 このように、会社役員の基礎収入額の認定には様々な事情を考慮する必要があり、その判断には困難を伴います。もし会社役員の方で交通事故にあって困っている方がおられましたら、一度弁護士にご相談することをお勧め致します。