皆様、こんにちは。

 今回は、いわゆる企業損害についてみてみたいと思います。
 企業損害とは、企業の取締役等が交通事故によって死傷した場合に企業に生ずる収益減少などの損害をいいます。

 企業損害は、被害者個人の死傷によって企業自体に生ずる損害であり、いわゆる間接損害にあたります。
 また、交通事故によって死傷した取締役等が直接被害者であるのに対し、企業は間接被害者といえます。
 直接被害者たる取締役等が損害賠償請求の主体となり、間接被害者たる企業は損害賠償請求の主体にはならないのが基本といえます。
 もっとも、現在、一定の条件のもと限定的ではありますが、企業損害についても損害賠償請求が認められています。

 この点に関するリーディングケースとなった判決が、最判昭和43年11月15日判決です。

 交通事故の被害者Aは個人で薬局を営んでいましたが、税金対策のため、事故当時、有限会社形態のX会社を設立して経営していました。ただ、社員は被害者Aと妻Bの両名のみであり、Aが唯一の取締役であるとともに代表取締役でした。また、X会社にA以外に薬剤師はいませんでした。このようにX会社は有限会社ではあるものの、実質はAの個人企業といえるものでした。

 このような事実関係のもと上記最判は、

「Xは法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様A個人に集中して、同人にはXの機関としての代替性がなく、経済的にAとXとは一体をなす関係にあるものと認められる」としたうえで、「原審がY(筆者注:加害者)のAに対する加害行為と同人の受傷によるXの利益喪失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上の被害者たるXの本訴請求を認容しうべきものとした判断は、正当である。」

としました。

 このように、同判例は、企業について生じた間接被害について、被害者と企業との間に経済的同一体といえる関係の成立があり、代表取締役が会社の機関して代替性がない場合には、会社の収益減少による損害について、代表取締役の受傷と相当因果関係のある損害として認めました。

 同最高裁判決以降の下級審判決例の傾向としては、上記最高裁判決と同様、「代表者個人と企業との間に経済的同一体の関係が認められるか否か」を基準としているものが多くみられます。
 そして、裁判例の傾向をみると、単に企業規模が小規模・零細であるというだけでなく、被害を受けた従業員や経営者の代替要員いないという事情や企業と当該被害従業員・経営者とは財布が共通であるといえる事情がない限り企業損害とは認められにくいといえます。

 間接被害者たる企業は原則として損害賠償請求の主体となるものはありませんが、法人化されていない企業の場合における結論との均衡を図るために、あくまで一定の条件下で限定的に認めるのが裁判例の傾向であると思われます。

弁護士 髙井健一