1 はじめに
被害者に生じている疾患が、民法722条2項の類推適用により、損害賠償額の減額の要素となり得ることは、判例において認められています。
では、疾患には当たらないですが、被害者の身体的特徴が被害の拡大に寄与した場合、損害賠償額の減額の要素となるのでしょうか。
2 事案
首が長いため多少の頸椎不安定症のある女性被害者が追突されて頸椎捻挫の傷害を受け、左胸郭出口症候群やバレリュー症候群を生じた事案で、原審は、体質的素因・心因的素因の競合を理由に損害賠償額の減額を認めました。
3 判決
「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。」
として、損害賠償額の減額を認めませんでした。
4 まとめ
身体的な特徴は人それぞれ違うものであって、また、先天的なものが多いものです。それにもかかわらず、損害賠償額の減額要素となるのは、公平とはいえないのではないでしょうか。
したがって、身体的特徴が疾患に当たらない場合に、損害賠償額の減額を認めなかった上記判例は妥当なものといえるでしょう。
弁護士 大河内由紀