こんにちは。今回は、慰謝料についてお話ししたいと思います。

 慰謝料とは、精神的損害に対する賠償であるとされています。慰謝料の本質については、損害の填補と捉えられており、現在の日本では、加害者に対する制裁のために、慰謝料額を増額するということは、原則として認められません(なお、騒音等による精神的な苦痛を防止する目的で、住民と建築業者間で成立した和解条項を建築業者が故意に破った事案で、住民による制裁的慰謝料請求を認めた事案につき京都地裁判決平成元年2月27日)。

 交通事故事案では、大量かつ同種の事案を効率的に処理するため、入通院期間や後遺障害等級に応じて、慰謝料額が定まっています(赤い本参照)。もっとも、赤い本に記載されている慰謝料額は、あくまでも基準に過ぎません。

 慰謝料の算定については、被害者側の事情のみならず、加害者側の事情も考慮されます。ですから、例えば、加害者がひき逃げをした場合は、慰謝料の増額事由となります。判例では「当事者双方の社会的地位、職業、資産、加害の動機及び態様、被害者の年齢、学歴等諸般の事情を斟酌すべきことはむしろ当然の事柄」とされています(最判昭和40年2月5日)。さらには、慰謝料の額は、裁判所の自由な心証の委ねられており、裁判所は、慰謝料の額を算定するにあたり、どのような事情をどの程度考慮したのかを示す必要はないとされています。

 したがって、慰謝料という項目は、事案の柔軟な解決(例えば、逸失利益としては証明が不十分であるため、認定することは困難であるものの、慰謝料額の上乗せにより、損害を填補する等といった場合)が可能になる反面、当事者としては、慰謝料額の予測は困難な場合があると言えるでしょう。