1 はじめに

 こんにちは、弁護士の伊藤です。

 今回は、いわゆる好意・無償同乗の類型を概観した上で、類型ごとに裁判例を紹介したいと思います。

2 好意・無償同乗

 好意・無償同乗とは、好意あるいは無償で同乗させてもらっている際事故に遭った場合、好意・無償で同乗させてもらっている者から、運転者、運転供用者等に対する損害賠償請求権の行使は、何らかの形で制限されるべきという考え方をいいます。

 現在の実務では、単なる好意・無償同乗を理由としては減額を行わず、同乗者自身の責任を問いうる後述する3つの類型に該当するときに限って、過失相殺の適用ないし類推適用あるいは信義則や公平の観点から[1]、損害賠償額を減額する扱いとなっています。

3 好意・無償同乗の類型

⑴ 危険承知型

 事故発生の危険性が高い客観的事情が存在することを知りながらあえて同乗した場合をいいます。

 この場合の同乗者の帰責事由としては、運転手に事故発生の危険性が高いような客観的事情がありながら運転を制止しなかった点[2]にあります。

⑵ 危険関与・増幅型

 同乗者自身において事故発生の危険性が増大するような状況を現出させた場合をいいます。

 この場合の同乗者の帰責事由としては、同乗者において事故発生の危険性の高い運転好意を幇助・助勢強要した点[3]にあります。

⑶ 共同運行供用者型

 同乗者が車両の保有者で車両を交代で運転するなど共同運行供用者となっているような場合をいいます。

 この場合の同乗者の帰責事由としては、運行利益と運行支配を併せ持つ同乗者自身の危険責任・報償責任[4]にあります。

4 裁判例

⑴ 危険承知型

 被害者Vが、加害者Aと飲酒後、自宅へ送ってもらうためA運転車両に同乗中衝突事故に遭った事案において、裁判所[5]は、Vにおいて、Aが相当程度酩酊していることを十分承知の上同乗していたことを理由に、AのVに対する賠償額を減額しました。

⑵ 危険関与・増幅型

 若者グループが深夜ドライブ中、同僚車を追い越すにあたりハンドル操作を誤った事案において、裁判所[6]は、Vにおいて、Aが終始1人で運転し疲労していたことや車両の定員超過を知りながら、スピードを楽しむ雰囲気の醸成に関与したことを理由に、AのVに対する賠償額を減額しました。

⑶ 共同運行供用者型

 Vが車を親戚から借り、友人Aと共にスナックで飲食した帰り道、Vは飲酒していたためAと運転を交代し、後部座席に同乗中に他車と衝突した事案において、裁判所[7]は、Vは車の運行供用者であり、事故当時、車はVとAの共同目的のために運行されていたことなどを理由に、Aの過失をVの過失と同視すべき旨判断しました。

5 結び

 好意・無償同乗に関する裁判例をみると、裁判所は、同乗者に対して、危険が予測される場面においては、事故発生を防止するための一定の作為を求めているといえそうです。

 交通事故防止のために、そして万一のときに正当な損害の填補を受けるためにも、同乗者の方には、ドライバーの安全運転を確保するよう努めることが求めらていると考えます。

[1] 水津正臣・藤村和夫・堀切忠和『実務家のための交通事故の責任と損害賠償』255頁。
[2] 德永幸蔵・小林健留「共同暴走行為を行っていた自動二輪車の運転手Aの過失を後部座席に乗車していたBの過失として考慮することができるとされた事例についての検討」(判タNo.1299―10頁。以下「德永・小林」。)。
[3] 德永・小林‐10頁。
[4] 德永・小林‐10頁。
[5] 東京地判平成7年6月21日・交民28巻3号901頁。
[6] 東京高判平成2年3月28日・判タ754号192頁。
[7] 大阪地判昭和51年6月28日・交民9巻3号902頁。

弁護士 伊藤蔵人