皆様こんにちは。弁護士の菊田です。
今回は、胎児の権利についてのお話です。
例えば、以下のような事例があったとします。
交通事故において、被害者が夫婦のうち夫であり、妻にはお腹の中に子どもがいたとします。この場合、妻は、夫の相続人となり、夫の加害者に対する損害賠償請求権を相続することになります。また、妻自身の権利としての加害者に対する慰謝料請求権が発生します。
では、お腹の中の子どもは、損害賠償を請求することができるのでしょうか。
原則からいえば、お腹の中の子どもに権利能力(権利の主体となる能力)が認められないため、加害者の行為によって親族権が侵害されたとはいえず、損害賠償は認められないことになります。
しかし、お腹の中の子どもは、加害者の行為がなければ、産まれた後に父の親族となり、扶養等される権利が発生していたはずです。このように考えると、お腹の中の子どもは、親族権を侵害されたと評価できるように思えます。
そして、このような考えから、民法は、上記原則に例外を設けました。それが、民法721条です。
(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
第七百二十一条 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
つまり、お腹の中の子どもは、損害賠償をする時には、親族権が侵害されたと評価されることができます。よって、お腹の中の子どもは損害賠償を請求することができ、子どもは、産まれたのちに、母を法定代理人として、加害者に対して損害賠償を請求することができます(死産であった場合にまで、賠償を認めるものではありません)。
皆様にとっては、権利能力という聞きなれない言葉といい、あまり考えたことのない問題であったかもしれません。これを機に頭の片隅においてみていただければと思います。