皆さんこんにちは。

 今回は、裁判例の紹介をしたいと思います。紹介する裁判例は横浜地裁平成18年11月8日(自保ジャーナル1676号)です。

 この事件では、原告は交通事故により脳挫傷等の傷害を負い、自賠責では、高次脳機能障害による精神障害について「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」として第3級第3号の後遺障害が認定されました。

 しかし、裁判所は次のように述べ、原告の高次脳機能障害による精神障害を第5級第2号の後遺障害と判断しました。

 「原告は、平成14年4月に復職したが、復職後は、一人で自宅から駅まで自家用の軽自動車で行き、同駅から東海道線に乗り換え、さらに山手線に乗り換えて会社まで行っていた。原告は、復職後、会社を休むことはほとんどなく、書類のファイリングなどの仕事を単独でしていたが、集計作業などは補助者が必要であった、自家用車の運転は、上記通勤だけでなく、買い物などでも行われている。

 上記認定事実によれば、原告は、単純な繰り返し作業をすることはできるが、新しい作業や職場に対する適応性には欠けており、就労の維持には職場の理解と援助が必要であるから、原告の高次脳機能障害は、特に軽易な労務以外の労務に服することはできないものとして、後遺障害等級第5級第2号に相当するというべきである。」

 後遺障害の第3級第3号の認定基準と第5級第2号の認定基準は、軽易な労務に服することができるかどうかに違いがありそうです。そして、この裁判例では、「職場の理解と援助」があり、就労を維持できるときは、第5級第2号に該当すると判断しているようです。逆にいうと、「職場の理解と援助」があっても就労を維持することができないときは、軽易な労務にも服することができないとして第3級第3号に該当すると判断される可能性があるように思えます。

 いずれにしろ、第3級第3号に該当するか、第5級第2号に該当するかのメルクマールの一つに、職場の理解と援助がある場合に就労を維持できるかどうかという点がありそうです。より上の等級を目指す場合はこの視点も忘れないようしたいですね。

 それでは、また。

弁護士 福永聡