1 はじめに

 交通事故のような不法行為による損害賠償請求権は、被害者が「損害及び加害者を知ったとき」から3年で消滅時効にかかり、放置したままでいると加害者から賠償を受けられなくなる可能性があります。
 そして、後遺症による損害については、一般的に症状固定の診断を受けたときから消滅時効が進行するとされています。

 他方で、実務上、後遺症による損害について賠償の請求をする場合、その前提として、損保料率機構により後遺障害等級の認定を受けることが通例となっています。
 そこで、被害者は、後遺障害の等級認定通知を受け取った時点で初めて、加害者に賠償を請求できる損害があることを知ったとも考えられるので、消滅時効の成立は、等級の認定通知を受けてから3年経過後とすべきではないかが問題となります。

2 判例(最高裁平成16年12月24日判決)

(1) 事案

 平成8年10月14日、交通事故に遭った被害者が、平成9年5月22日に症状固定の診断を受けました。
 その後、被害者には後遺症が残っていたため、後遺障害等級の認定申請が行われたところ、平成9年6月9日、後遺障害等級には該当しないとの認定を受けました。
 しかし、平成11年7月30日、この認定に対して被害者が異議申立てを行ったところ、後遺障害等級12級12号の認定を受けました(更に異議申立てをしましたが、それは退けられました。)。
 そして、平成13年5月2日、加害者に対して損害賠償を求める訴えが提起されましたが、加害者から消滅時効の主張がなされました。

(2) 判決

 判決は、遅くとも症状固定の診断を受けた平成9年5月22日から消滅時効が進行するとし、その理由として「自算会による等級認定は、自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず、被害者の加害者に対する損害賠償権の行使を何ら制約するものではない」としました。

3 コメント

 裁判所は、損保料率機構の認定に拘束されることなく、独自に後遺障害の程度について判断することができますので、被害者は、理屈の上では後遺障害等級の認定を受けていなくても加害者に賠償を請求することはできます。
 このため、この判例がいうように、等級の認定を受けたどうかにかかわらず、症状固定の診断を受けた段階で、加害者に対して賠償請求することができる程度に損害の発生を知ったということができたといえるでしょう。

 ただ、実務上、損保料率機構の後遺障害等級の認定がおりない状態で加害者が任意に後遺症による損害ついて賠償金を支払うということは基本的にはありませんので、このように考えることは被害者にとって酷であるようにも思えます。
 しかし、裁判上、消滅時効の起算点について前記のように考えられている以上、被害者としては、後遺障害等級の認定がおりていない場合であっても、時効が完成する前に訴訟提起をする等の対応をすることを考えるべきだと思います。

弁護士 福留 謙悟