交通事故における損害賠償金は各損害項目を合算し、総額を算出するという個別積上げ方式が採用されています。まず、人身損害と物的損害に大別され、物損ではさらに修理費等の車両損害と携行品・積荷等の車両以外の損害に分けて、それぞれを合算していくことになります。
車の値段も幅はありますが、人損よりも低額の賠償金になるとの印象を持たれている方も多いのではないでしょうか。しかし、トラック等の積荷や電柱・店舗なども物損の賠償項目に入ってくるため、事案によっては億を超える賠償額が認容されることもあります。
たとえば、大阪地裁平成23年12月7日判決では、1億1798万5333円の賠償金の支払いが認容されました。事案としては、衝撃に弱い精密装置(おむつ製造機)を積載輸送していた大型トレーラーに普通貨物車が追突したというものです。被告は、トラックに極めて高額の精密装置を積んでいることは、一般人の社会通念からは通常予見できず、したがって賠償義務はない、と主張しましたが、判決では、①大型トラックやトレーラーの荷台に大型の機械設備等が積載されるというのは通常の事柄といえ、機械設備などの精密機器が使用されているというのも通常の事柄であること、②多数の者が無制限の対物保険に加入していることに照らせば、損害は一般人の社会通念からも通常予見可能であると判断しています。
その他、パチンコ店に追突した案件や踏切内で電車と衝突した案件でも1億数千万円の賠償金が認容されています(東京地裁平成8年7月17日判決、福岡地裁昭和55年7月18日判決等)。
物損事故では、神戸地方裁判所平成6年7月19日判決の、2億6135万5170円が最高額とされています。事故を起こしたトラックは、高価品である呉服、紳士服及び毛皮を運搬していましたが、横転・炎上したことにより、全ての積荷が焼失しました。なお、判決では5割の過失相殺がなされたため、最終の認容額は1億3067万7585円となっています。
物損は、100万円以下が9割を占め、1000万円を超える損害は0.1%に過ぎないともいわれています。しかし、裁判例では1億を超える賠償金を命じるものもあることから、万が一のときに備えて、対物保険の限度額を再度、検討されることをお勧めいたします。