素因減額が否定された判例について

 こんにちは。今日は、交通事故による傷害について素因減が争われた事案で、素因減額が否定された判例を検討してみたいと思います。

 前提としまして、交通事故によって椎間板ヘルニアが発症したとの主張に対し、椎間板ヘルニアは加齢による変性の場合が多いため、事故によって椎間板ヘルニアが発症したと言えるか否か問題になるケースが多いのです。

今日取り上げる判例(京都地裁判決平成25年2月5日)においても、被告が椎間板ヘルニアには加齢による変性の方が多く頸椎椎間板に椎間板突出という変性変化が自然に生じた可能性が医学的に考えやすいと、交通事故との因果関係を争う主張をしました。

 これに対して、判例は

「証拠は、原告の場合、MRI上は椎間板ヘルニア、すなわち頸部神経根の傷害が生じてもおかしくない所見であるが、後遺障害診断書には神経学的異常所見に関する記述がないから少なくとも後遺障害診断時点では椎間板ヘルニアの状態ではなかったというのであるが、そうだとすると、少なくとも症状固定時点で、頸椎の椎間板突出と症状固定時点の原告の頸部痛等との間に因果関係がないことになり、証拠のいう椎間板突出という変性変化は上記症状の素因とはいえない。」

と判断しています。

さらに続けて、

「頸椎の椎間板ヘルニアにより原告の症状が発生した可能性はあるものの、症状及び神経学的所見との整合性に欠けるため断定はできないのであるから、椎間板ヘルニア(椎間板の突出)が素因となっていると断定することもできない。」

「しかも、加齢による退行変性はそれが疾患といえる程度のものでなければ素因減額の対象となる素因といえないが、本件事故前頸椎に疾患というべき退行変性が存在していたことを認めるに足りる証拠もない。既往の無症状のヘルニアが存在し交通事故を契機に症状が出現した場合、既往のヘルニアが疾患というべき状態であったか否かにかかわらず素因減額すべきであるとの被告の主張は採用できない。」

と判断しています。

 このように、既往のヘルニアがあったとしても頸椎の椎間板突出と頸部痛等との間に因果関係が認められるかどうかを判断し、あるとしてもそれが素因減額すべき「疾患」と言えるかどうかを判断すべきことになります。

 そして、椎間板ヘルニアは加齢による変性の場合が多いとはいえ、椎間板ヘルニアと事故による障害との間の因果関係が認められれば、次にそれが「疾患」と言えるかどうかを判断し素因減額の有無を判断することになります。