皆さんこんにちは。今日のテーマは、「社長の休業損害」です。

 休業損害は、交通事故の影響で、仕事を欠勤、遅刻、早退した場合や有給休暇を使った場合に、その実損を補償するためのものです。

 サラリーマンのような給与所得者の場合は、たいてい事故前3か月の平均賃金を算定基礎にして計算するので、算定基礎をどうするかという点についてはあまり問題がありません。

 主婦のように、収入がない場合でも、家事労働に従事している人については、賃金センサスという平均収入のデータをもとに計算するので、これもまたあまり難しい問題はありません。

 では、今回のテーマのように、会社の社長が交通事故にあった場合の休業損害の算定はどうなるでしょうか。

 サラリーマンと同じで、平均賃金を算定基礎にすればいいんじゃないの?と考える方がいらっしゃると思います。

 しかし、社長というのは、会社の役員です。会社との契約形態は、サラリーマンのように雇用契約ではなく、経営を任せるという委任契約です。そのため、その収入には、役員としての稼働に対し支払われる部分と、経営結果による利益配当部分に分かれます。そして、この利益配当部分については、労働したことの対価ではないため、労働できなかったことによる損害の補償である休業損害の算定基礎にならないのです。

 では、その二つの部分をどう区別するかですが、明確に決まっているわけではなく、会社の規模、収益、業務内容、役員の職務内容、年齢、類似法人の役員報酬の支払い状況等様々な要素を勘案して決められます。

 たとえば、従業員が数名しかおらず、事故にあった社長も現場に出て他の従業員と一緒に働いていたという場合は、ケースバイケースですが、役員報酬の名目で会社から支払いを受けていた金員についても労働の対価として休業損害の算定基礎になる場合があります。一方、従業員が何百人、何千人の大企業の役員が事故にあったという場合は、役員報酬の名目で支払われている金員については、労働の対価とはいえないと判断されることもあります。

 特に、中小企業の役員の方は、役員報酬部分も含めて労働の対価といえるか、即ち休業損害で補償されるかどうか、悩ましいと思います。ぜひ、ご相談ください。

弁護士 上辻遥