皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 本日は、前回の続きで、労働能力喪失率につき、自動車損害賠償保障法施行令の基準を上回る割合が認定された事例(東京地判平成8年2月28日、自保ジャーナル1177号)を紹介させて頂きます。
 (前回の記事はこちら:後遺障害による逸失利益について

事案の概要

 原告は、事故当時60歳の男性で、兼業農家をしていました。
 事故にあったのは平成2年12月18日午後4時35分頃でした。原告が原動機付自転車で進行していたところ、被告の運転する貨物車が路外から侵入してきて、衝突しました。

 この事故によって、原告は、脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負い、入通院した後、後遺障害等級第7級に該当する後遺障害を残しました。
 症状としては、

① 右不全麻痺
② 知能テスト等における著明な機能低下が認められる高次脳機能障害
③ 抗けいれん剤投与の必要がある
④ 軽易な労務以外の労務は困難で、1人で日常生活を送ることは困難

といったものでした。

 なお、この事故に適用される基準によれば、後遺障害等級第7級の労働能力喪失率は56%と規定されていました。また、当時の第7級に該当する後遺障害としては、(ⅰ)片眼を失明し、もう片方の眼の視力が0.6以下になったもの、(ⅱ)1上肢に仮関節を残し、著しい運動障害を残すもの、等が規定されていました。

裁判所の判断

 裁判所は、上記①~④の事情に加え、訴訟においても、原告がほとんど尋問にも耐えられない状態であったことから、

「原告の後遺障害の程度は、『終身にわたり極めて軽易な労務の外服することができないもの』という後遺障害等級五級に該当する程度にまでは至ってはいないものの、後遺障害等級第七級としては重篤な部類に属していると認められ、原告が今後外部に勤務して収入を得ることはほとんど不可能であると認められることも考慮すると、原告はその70パーセントの労働能力を喪失したと認めるのが相当である」

として、原告の労働能力喪失率が70%であると認めました。

 たしかに、この事件での原告の後遺障害は、他の第7級後遺障害よりも重篤なものであることは明らかですね。結果として、第6級の労働能力喪失率である67%をも超える労働能力喪失率が認められました。もっとも、原告は労働能力喪失率が100%であると主張しており、その主張が完全に認められたわけではありませんが・・・。

 このように、裁判所は、自賠責における後遺障害等級の認定に必ずしも拘束されるわけではありません。もし同認定に納得がいかないようでしたら、弁護士に相談されることをお勧めします。