今日は、交通事故の場合にも問題になりうる、使用者責任についてお話をさせていただきたいと思います。
1 使用者責任とは
民法715条1項は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」としています。
この規定は、使用者は従業員が仕事をすることによって利益を得ているのであるから、従業員が事業の執行について他人に損害を与えた場合、使用者にも責任を負わせるのが公平であるという理念に基づき定められていると言われています。
2 交通事故の裁判例について
(1) 交通事故においても使用者責任は問題となりえますが、争点の1つに、従業員が通勤中に起こした事故についてまで使用者責任を問えるかという問題があります。具体的に2つの判例を挙げて検討します。
(2) 1つは、最高裁判所昭和39年2月4日判決です。車の販売等を行っていた会社の販売契約係の従業員が、帰宅しようとしたものの、最終列車に乗り遅れたため、私用を禁止されていた会社の車に乗って帰ろうとして事故を起こした際に、会社が被害者に対して責任を負うかが問題となった事案です。
裁判所は、
「『事業ノ執行ニ付キ』というのは、必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りるものと解すべきである」
として、会社の責任を認めました。
(3) もう1つは、最高裁判所昭和52年9月22日判決です。会社が従業員に対し、自家用車を利用して通勤し又は工事現場に往復することを原則として禁止し、県外出張の場合にはできる限り汽車かバスを利用し、自動車を利用するときは直属課長の許可を得るよう指示していたにもかかわらず、従業員が無届で自家用車を使用して出張して、出張先から帰る際に事故を起こしたものです。 この事例では、使用者の責任が否定されました。
(4) 両判決は、事故を起こした車が会社の車か自家用車かという点で大きく異なっています。最高裁は外形からみて職務の範囲内にあるかどうかで判断しており、社用車であれば外形上、職務の範囲内であるというのであれば比較的わかり易いのではないでしょうか。
そうすると、最高裁判所昭和52年9月22日判決のように、自家用車であれば一律使用者責任は否定されてもよさそうです。
しかし、その後、自家用車でも使用責任を認める判決が出されています(福岡地方裁判所飯塚支部平成10年8月5日判決)。次回は、この判決について説明させていただきたいと思います。