交通事故に遭った場合、いわゆる逸失利益(本来得られるべきであるにもかかわらず、交通事故により得られなかった利益)として、本来得られるべき収入について、損害賠償請求をすることができます。
もっとも、交通事故後の収入について、必ずしも全額を請求することができるわけではなく、後遺症がある場合には、症状固定後の逸失利益について、後遺症の程度に応じた労働能力喪失率の割合を乗じて、損害賠償請求することになります。
今回は、3級3号の高次脳機能障害等併合2級の後遺障害を残した事件において、労働能力喪失率95%を認めた下記裁判例を紹介します(大阪地方裁判所平成17年(ワ)第3978号)。
本件は、原告が原動付自転車(以下「原告車」という。)を運転し、被告は普通自動車(以下「被告車」という。)を運転していたが、被告が道路外に出るため左折したときに、原告車と衝突し原告が転倒して意識不明の重体となった事案である(原告は事故後3週間後に意識が回復した。)。
原告は、意識回復後当初から高次脳機能障害の症状がみられ、事故後2年7カ月後に症状固定したが、原告の症状固定後の状況は、「ストレス耐性が低く、易怒性、飽きっぽさがあり、キレる時には粗暴な言動に及ぶものであり、自分自身では適切な対応ができていない」というものであった。
もっとも、原告は本件事故後コンビニエンスストアで一時期アルバイトをしていたという事情がある。
この点について、大阪地方裁判所は、「原告について就労意欲自体はあり、事故後に働いたコンビニエンスストアの雇用主のように後見的な環境があり、しかも就労内容が、対人的な交渉が少なく随時的・限定的なものであれば、原告がリハビリ等を通じて持続性を獲得できれば一定の収入が得られる可能性がある」旨判示し、原告の症状固定後の労働能力喪失率を95%とした。
本件は、重度の高次脳機能障害が発生した事案であり、労働能力喪失率については、損害賠償請求額に大きく影響する事項であるため、本判決は参考になると思われます。