こんにちは。今回は、基礎収入を賃金センサスによる男子大卒全年齢平均年収を相当とした判例(大阪地方裁判所判決平成20年4月28日)を紹介したいと思います。

 事故の概要は、被害者の運転する自動二輪車が交差点の黄色信号に従って停止したところ、被害者の自動二輪車に、後方から交差点を通過しようとした加害者の運転する自動車が追突して転倒させたというものです。

 基礎収入は逸失利益の算定に用いられます。逸失利益とは、事故がなければ本来得られた利益のこと、具体的には、就労により得られたはずの給料等を指し、原則として、事故に遭う前の収入を基準とします。もっとも、若年者(概ね30歳未満)の場合は、収入が低額であり、かかる額を基礎収入とすると不利となるため、「全年齢平均賃金額」を採用し、生涯を通じて「全年齢平均賃金額」を得られる蓋然性が認められない場合は減額をすべきであると考えられています。

 本件では、被害者は事故当時26歳と若年であり、その収入は年間299万4738円と同年齢の男性労働者の平均年収の68%程度に留まっていました。そこで、加害者側は、被害者の収入は事故の時点で同年齢の平均収入よりも低いのだから、将来も全年齢平均賃金額の収入を得られる可能性はない、したがって、全年齢平均賃金額を基礎収入とするのはおかしいと主張して争いました。

 裁判所の判断は、前述のとおり、全年齢平均賃金額を基礎収入とすることを認めました。日本の損害賠償は実損(実際に発生した損害)を賠償するという考え方を採用しており、懲罰的な損害賠償を原則として否定しています。では、本件事案は、実損主義に反した判断なのでしょうか。

 本件事案において、裁判所は、(被害者は)

「在職期間が短かったために、本給、賞与ともに低かったものと認められる。これらに加え、(被害者が事故当時勤務していた会社は)、関西における大手企業であることも勘案すれば、(被害者については)、将来において全年齢平均賃金を得る蓋然性はあったと認めることができる。」

と判示しています。本件では、被害者は、就職して10か月程度しか経っていませんでした。とすれば、同年齢の労働者と賃金格差が生じるのはやむを得ないと言えるでしょう。さらに、被害者の勤務先の会社の規模を考慮しています。そのうえで、将来、被害者が全年齢平均賃金を得る可能性を認めているのであり、まさに全年齢平均賃金を実損と捉えています。

 本判例は、単に金額を比較するのではなく、勤続年数や会社の規模等細やかな事実認定をしており、個人的には納得のいく判決だと思います。