交通事故事件における消極的財産損害(被害者が事故がなければ将来にわたって得られたであろう利益)として、休業損害、後遺障害逸失利益及び死亡逸失利益があります。

 今回は、このうちの休業損害について基本的な部分をみてみたいと思います。

 休業損害とは、傷害により仕事ができなくなり、得べかりし利益を失ったことに対する損害です。

 この休業損害の発生する期間は、基本的には事故発生時から傷害の治癒または後遺障害の症状固定日または死亡日までの期間となります。症状固定日または死亡日の翌日以降の逸失利益については後遺障害逸失利益または死亡逸失利益として算定されます。

 損害額の算定は、減収額が把握できればそれにより、そうでなければ収入日額を認定した上で、休業日数を乗じて算出されます。すなわち、基本的には基礎収入の日額に休業日数を乗じて算定されることになります。

給与所得者の場合

 事故前の給与額を基礎収入とし、欠勤のために喪失した給与額を算定します。
 実務的には、常用労働者の場合、事故前3か月の平均給与を基礎収入とすることが一般的です。なお、損害賠償金は非課税であるため、所得税や住民税が控除される前の額面給与が基準となります(最判昭和45.7.24参照)。

個人事業者の場合

 個人事業者の場合、原則として事故前年の確定申告を基本に収入額から、固定経費を除いた経費を控除した額を基礎収入とし、休業期間を乗じて算定されます。
 もっとも、必ずしも確定申告に限らず、実際の収入額が証明されればそれによることができます。

家事従事者

 家事従業者が傷害のため家事に従事できなかった場合にも休業損害は認められます(最判昭和50.7.20)。

 家事従事者とは、もっぱら家庭において主婦的な業務に従事している者で、賃金センサスの女性平均賃金(賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金)をもって損害額を算定します。

失業中の人

 休業損害は、現実的な収入の減少を填補するものなので、失業中の人については、原則として休業損害は発生しません。

 しかし、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある人については一定の休業損害が認められる場合もあります。ただ、注意しなくてはならないのは、労働の能力と意思があるというだけでは休業損害は認められず、あくまで就労の蓋然性が必要であり、この立証にはしばしば困難を伴うということです。また、立証に成功しても、やはり賃金センサスを下回り、その何割という形で認定されることが多いといえます。

学生、生徒、幼児等

 現実収入を得ているわけではないので、原則として認められません。
 ただし、学生がアルバイトをしている場合には認められる場合があります。また、就職が遅れた場合には、就職遅れとしての損害が認められる場合があります。

弁護士 髙井健一