事案

 Aは、個人で薬局を営業していましたが、納税上不利であるという理由で法人成りし、有限会社Xを設立し、その代表取締役になりました。Xの社員は、Aと妻の2名のみで、XにはA以外に薬剤師がいません。

 Aの負傷により、Xの営業利益が減少したため、Xは、Yに対し、その逸失利益の賠償を求めました。

判旨

 「原判決の確定するところによれば、飯田Aは、もと個人で飯田薬局という商号のもとに薬種業を営んでいたのを、いつたん合資会社組織に改めた後これを解散し、その後ふたたび個人で真明堂という商号のもとに営業を続けたが、納税上個人企業による経営は不利であるということから、昭和三三年一〇月一日有限会社形態の被上告会社を設立し、以後これを経営したものであるが、社員はAとその妻Bの両名だけで、Aが唯一の取締役であると同時に、法律上当然に被上告会社を代表する取締役であつて、Bは名目上の社員であるにとどまり、取締役ではなく、被上告会社にはA以外に薬剤師はおらず、被上告会社は、いわば形式上有限会社という法形態をとつたにとどまる、実質上A個人の営業であつて、Aを離れて被上告会社の存続は考えることができず、被上告会社にとつて、同人は余人をもつて代えることのできない不可欠の存在である、というのである。

 すなわち、これを約言すれば、被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様A個人に集中して、同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであつて、かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、原審が、上告人のAに対する加害行為と同人の受傷による被上告会社の利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上間接の被害者たる被上告会社の本訴請求を認容しうべきものとした判断は、正当である。」

解説

 本判決は、代表者の非代替性と代表者個人と会社の経済的一体性を要件として、企業損害の賠償を認めました。間接被害者の損害賠償につき、影響力のある判例といえるでしょう。

弁護士 大河内由紀