1 損害賠償請求権等の短期消滅時効制度

⑴ 加害者に対する損害賠償請求権

 交通事故被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権については、法律上、短期消滅時効の規定が適用されます。

 具体的には、当該損害賠償請求権は、交通事故被害者又はその法定代理人(被害者が未成年者の場合の親など)が、損害及び加害者を知った時から3年間権利行使しないときは、時効によって消滅します(民法724条前段。一般の債権は10年・民法167条)。

 消滅時効にかかった場合、加害者が時効の利益を受けるとの意思を示せば(時効の援用・145条)、確定的に請求権は消滅し、被害者は加害者に対して損害賠償を求めることはできません。

 

⑵ 自賠責保険会社に対する被害者請求

 同様に、自動車損害賠償保障法(自賠法)の被害者請求(交通事故の被害者が直接、加害者が加入している自賠責保険会社に対して、損害賠償額の請求をすること・自賠法16条1項)についても、損害及び加害者を知った時から3年で消滅時効にかかります(自賠法19条)。

 なお、自賠法の改正によって、平成22年4月1日以降に発生した事故については、被害者請求の消滅時効期間が2年から3年に伸長されています。

2 短期消滅時効の起算点

 加害者に対する損賠賠償請求権及び被害者請求の起算点(時効期間計算の出発点となるべき時点)は、原則として、以下のように解釈されています。

 平成22年3月31日以前に
発生した事故
平成22年4月1日以降に
発生した事故
傷害による損害事故時から2年事故時から3年
後遺障害による損害症状固定時から2年症状固定時から3年
死亡による損害死亡時から2年死亡時から3年

3 時効の中断

 他方、時効期間の経過を食い止める手段として、時効中断の制度があります。時効の中断とは、時効完成前に、その基礎となっていた事情を覆すような事由が発生した場合に、それまでの時効期間の経過を無意味化(リセット)することを言います。

 時効中断事由について、民法147条は、「請求」、「差押え、仮差押え又は仮処分」、「承認」を規定しています。例えば、被害者が、加害者側から損害の一部の支払いを受けた場合、加害者は被害者の請求権を「承認」したことになり、その時点で時効は中断し、新たな時効期間が始まることになります。

 なお、被害者請求については、被害者が自賠責保険会社に「時効中断申請書」という書面を提出すれば、原則として自賠責保険会社は時効中断を承認することになっています。

しかし、注意すべきなのは、加害者に対する損害賠償請求権と自賠責保険会社に対する被害者請求は、別個独立に時効期間が進行し、一方が中断したからといって他方も中断するという関係には立たないということです。

 例えば、被害者が、自賠責保険会社に対して被害者請求をして、保険金を受領しても、「加害者から損害の一部の支払いを受けた場合」と同視できず、加害者に対する損害賠償請求権の時効は中断しないと解されています。そのため、被害者としては、加害者と自賠責保険会社双方の請求権について、各別に時効中断しておく必要があります。

4 できるだけ早い時期に相談を

 以上のとおり、交通事故の被害者は、加害者や保険会社に対する請求権が消滅時効にかかっていないか十分に注意する必要があります。保険会社との交渉が長引いている内に時効期間が経過してしまい、損害賠償請求ができなくなる等という事態は、確実に避けねばなりません。

 よって、不運にも交通事故の被害者となってしまった場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをお勧め致します。