「まだ足に痛みが残っているんだけれども、保険会社が『通院が終わったのならサインして送り返してください』といって免責証書を送りつけてきました。確かに最近は病院に行っていませんでしたが、これに署名しても、その後必要があれば通院しても問題ないんですよね?」

 先日、交通事故の法律相談で、そんな話が飛び出しました。

 結論からいうと、答えは「NO」です。
 正確に言えば、病院で診察・治療を受けることはもちろん可能なのですが、その費用を保険会社が支払ってくれることはまずありません。この「免責証書」という書類、署名する場合は細心の注意が必要なのです。

 交通事故に遭って、一通りの治療が終わったあと、相手方保険会社の担当者とのやりとりを経たら、保険会社から免責証書へのサインを求められるのが通常です。

 「免責証書」とは、交通事故によって生じた損害を確定するとともに、同証書を交わすことで、紛争をそれ限りで終わりにし、加害者の責任を文字通り「免責」するもの。示談書と呼ぶこともあります。免責証書を交わしたあとは、基本的に、交通事故に関する賠償の請求をすることはできません。というのも、この免責証書の中に、「甲乙は、その余の請求を放棄する」、「本条項で定めるものの他、当事者間に一切の債権債務関係が存在しないことを相互に確認する」等といった、免責証書上に示された金額以外の請求を今後認めないという一文が記されているからです。

 しかし、法律には、原則があれば例外もあります。

 免責証書を作成した後でも、さらなる賠償が絶対に認められないというわけではありません。限られたケースですが、「後発損害」といって、示談当時には明らかでなかった損害について、請求が認められる可能性がゼロではありません(最高裁昭和43年3月15日判決など)。治療が必要となった経緯や症状が出てきた部位、示談時に当該症状の発生が予見できなかった理由、その他さまざまな事情から、保険会社の負担でさらに治療を続けることが必要であることを詳細に主張していくことになるでしょう。

 物損の場合は、このような後発的事情による請求はさらに困難なことが多いです。思いもかけない部位の痛みが突然生じたり、精神的な障害が突発的に起こったりする人の体とは異なり、機械は修理すれば元通りになる(ハズだ)という前提があるのかもしれません(私自身は、必ずしもそうではないと思うところですが・・・)。逆に言えば、物損であったとしても、示談当時に判明し得なかった損害であることが立証できれば、後発損害としての請求が法的には可能であるということになります。

 このように、免責証書(示談書)を交わした後にさらなる損害の賠償を請求していくためには、越えなければならない大きなハードルがあることは間違いありません。安易に免責証書を交わさないことはもちろんのこと、仮に当初予測し得なかったトラブルが後から生じてしまったような場合には、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。