家事従事者が交通事故に遭ったことにより負傷し、後遺障害が残存した場合には、原則として、全女性労働者の平均賃金を基礎として後遺障害逸失利益を算定します。有職の家事従事者の場合、実収入が上記の平均賃金以上のときは実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により後遺障害逸失利益を算定します。

 ただし、年齢、家族構成、身体状況及び家事労働の内容などに照らし、生涯を通じて全年齢平均に相当する労働を行い得る蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には、年齢別平均賃金を参照して基礎収入を適宜減額するとされています(「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」東京地裁・大阪地裁・名古屋地裁交通事故専門部総括判事・判タ1014号62頁以下参照)。

 そこで、被害者側から高齢の家事従事者について後遺障害逸失利益を請求する場合、相手方から年齢・生活状況を理由に基礎収入を減額すると主張されることがあります。

 しかし、どのような場合に年齢別平均賃金を参照して基礎収入を減額すべきかは非常に困難な判断です。

 そのため、上記「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」には、具体的な適用例が掲げられています。

 45歳の専業主婦(夫と未就労の子供二人)、事故前収入なし、労働能力喪失率35%という事例では女性全年齢平均賃金を基礎収入として、逸失利益を算定するとされています。

 88歳の専業主婦(夫と二人で年金生活)、事故前収入なし、労働能力喪失率35%という事例ではそこにおける家事労働は日常的な活動と評価するのが相当であるとし、逸失利益は認められないとされています。

 74歳の専業主婦(夫と二人で年金生活)、事故前収入なし、労働能力喪失率35%という事例では女子の65歳以上の平均賃金の7割を基礎収入とするのが相当であるとされています。その理由として74歳女性の平均余命は14.34年であるから(平成9年当時)、
少なくとも7年間は家事労働を行うことができ、これを金銭評価するのが相当であるしています。そして、年齢と生活状況を併せて考えると、65歳以上の平均賃金の7割を基礎収入とするのが相当としています。

 共同提言においては、「上記の適用例は、共同提言の内容を分かりやすく説明するために類型的かつ原則的な場合を想定したものであり、現実の具体的な事件においては、諸般の事情にかんがみて、異なる取り扱いがされる場合がある」とされていますが、高齢の家事従事者の逸失利益を考える上で、非常に参考となるため、本稿で取り上げました。