今回は、交通事故で直接の接触がないが、被害者の損害に対する責任が認められた判例を紹介します。
また、この判例でも認められている共同不法行為責任の場合に、どのように過失相殺をすべきかについての考え方についても紹介します。
第1 非接触の事故でも責任が認められることについて
平成14年2月25日 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第1953号の事件は、自動二輪車が道路上に設置された工事用の柵に衝突し、その衝突の影響で押し出された工事用の柵が自転車に衝突したという交通事故に関し、自転車の運転者である原告が、自動二輪車等の運転者である被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。判旨において「左折に際し、左後方の十分な安全確認を怠ったものと推認でき、一方、被告Aは、B車の動静を十分に注視することなくB車の左側から同車を追い抜こうとしたものと推認でき、これらの認定を覆すに足りる証拠はない。
そして、被告Aは、B車との衝突を避けようとして転倒し、その結果、本件スタンドが原告運転の自転車に衝突するという本件事故が生じたのであるから、本件事故は、被告らの過失があいまって生じたものと認められる。よって、被告らは、原告に対し、共同不法行為責任として、本件事故により原告が被った後記損害を連帯して賠償する責任を負う。」とされています。
接触がないと、「自分には責任はない。」と主張される人は少なくないですが、この判例からも車両同士の接触がなかったからといって、責任が否定されるわけではないことがわかります。
第2 共同不法行為における過失相殺について
1、絶対的過失相殺と相対的過失相殺
共同不法行為責任が認められた場合に、各加害者と被害者間の過失割合に応じて,過失相殺の方法をどのように考えるべきかが問題となります。このような共同不法行為における過失相殺の方法としては、絶対的過失相殺と相対的過失相殺があります。
絶対的過失相殺とは、各加害者の行為を一体的にとらえてこれと被害者の過失割合とを対比して過失相殺をする方法です。 相対的過失相殺とは、当事者対立構造という民事訴訟の構造に合わせて各加害者と被害者ごとにその間の過失割合に応じて過失相殺をする方法です。
2、相対的過失相殺の方法が採用された判例
最高裁平成13年3月13日判決は、順次発生した交通事故と医療過誤の競合事案で、
「過失相殺は不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれ過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、本件のような共同不法行為においても過失相殺は各不法行為者と被害者との間の過失の割合に応じて斟酌すべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失割合を斟酌して過失相殺をすることは許されない」
としました。
3、絶対的過失相殺の方法が採用された判例
最高裁平成15年7月11日判決は、三者間の交通事故の事案において
「複数の加害者の過失及び被害者の過失の割合を認定することができるときは、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。これに反し、各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失割合に応じて相対的に過失相殺をすることは被害者が共同不法行為のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる。」
としました。
4、まとめ
学説上の整理では、上記2の判例は民法719条1項後段の適用対象となる共同不法行為が成立した事例である一方、上記3の判例は719条1項前段の適用対象となる共同不法行為が成立した事例です。
共同不法行為における過失相殺の方法については、個々の共同不法行為の内容を踏まえて絶対的過失相殺の方法と相対的過失相殺の方法のいずれが適当かを検討していくことが適当です。
複数の加害行為が同質で、加害者及び被害者の過失を同一平面で比較できる場合は、絶対的過失相殺によるのが原則、複数の加害行為が異質で加害者及び被害者の過失を同一平面で比較できない場合は相対的過失相殺によるのが原則との見解もあります。(佐久間邦夫ほか「リーガルプログレッシブシリーズ 交通事故損害賠償関係訴訟」)